イベント

東京女子大学創立100周年記念 特別対話講演

96歳 寂聴さんとともに

瀬戸内 寂聴 VS 黒田 杏子

当日の様子を動画にてご覧いただけます。
→「96歳寂聴さんとともに 瀬戸内寂聴 VS 黒田杏子」(YouTube)

 2018年9月28日、前日までの不安定な天候を吹き飛ばすかのようなさわやかな秋晴れの日、創立100周年にふさわしい、本学卒業生お二人の対話講演が実現しました。日本の小説・俳句の第一線で活躍中の瀬戸内寂聴さんと黒田杏子さんです。講堂は、多くの卒業生、一般の方々、本学学生や教職員で埋め尽くされました。休憩を挟んで3時間近い長丁場となりましたが、終始お二人の機智に富んだ軽妙なやり取りが繰り広げられました。
対話講演の冒頭、黒田さんは、野間文芸賞を受賞した寂聴さんの小説『場所』に収められている「西荻窪」をメリハリのある声で読み上げながら、寂聴さんが東京女子大学に進学されたきっかけとなるエピソードを紹介されました。徳島の女学校の廊下に貼ってあったポスターの美しいチャペルに心魅かれ、実際にこのキャンパスに足を運んだ時に「鉄柵のようなさりげない門は、半ば開いていて、誘いこむようななつかしい感じがした」そうです。これを聞いたとき、私は、ある新入生が言った「私は、東京女子大学に呼ばれた」という言葉を思い出しました。
 対話講演の前半は、寂聴さんの第一句集『ひとり』をテキストとして進められました。「私の俳句の先生」と寂聴さんの言う黒田さんが、85 句から選んだ7つの俳句を通して、作家、俳人、僧侶、社会活動家として生きてきた寂聴さんの96年間の人生を、実に魅力的に紹介されました。「句集『ひとり』は、寂聴さんの人生絵巻である」という黒田さんの言葉どおり、ここには、17文字に込めた思いが織りなす一人の女性の人生が、端的に表れていると思いました。なかでも、私には、「子を捨てしわれに母の日喪のごとく」が心に沁みました。目の前のステージでソファににこにこしながら掛けている寂聴さんの、心の奥深いところに存在し続ける複雑な思いが伝わる一句でした。対話の端々から、寂聴さんと黒田さんの長く深い友情を感じ取るとともに、お二人に共通する「日本語の表現者」としての深い見識を感じました。

 後半は、黒田さんの巧みな会話術により、寂聴さんが思いのままに語られる形式で進められました。小説家として源氏物語を訳すことになったきっかけ、円地文子氏や川端康成氏とのエピソードなど貴重なお話を伺うことができました。寂聴さんの僧侶、文人として歩まれた人生の絵巻物に、満席の聴衆全員はただただ引き込まれるばかりでした。
 寂聴さんは、お話の中で、「人は褒めて伸ばすのよ。人間褒めると力が出るの。ダメと言われるとダメ。できるだけいいところを探して褒めるの」と、何度かおっしゃいました。これは教育を任とするものにとって大切なご指摘でした。
 また、学生時代のことにも触れ、「第2代学長の安井てつ先生が『あなたたちはキャフェテリアでお茶を飲んでみんなとおしゃべりして、それだけでも東京女子大に来たということは幸せなことなのよ』とおっしゃった。それを今日、この講堂に入ったときに思い出しました」と述べられました。そして、講堂に集まった人々に対し、「東京女子大学との縁を大事にしてほしい」と呼び掛けてくださいました。
 今回、寂聴さんと黒田さんから発せられた数々の言葉は、創立100周年を迎え、次の100年を歩み始めた本学にとって、大変力強いメッセージとなりました。お二人をはじめとする本学の卒業生が国内外のさまざまな場面で活躍していますが、その原点が本学の学びであることを学長として誇りに思わされました。と同時に、東京女子大学に集う一人ひとりが何かの良き縁で繋がっていることを思い、本学の良き学びを、将来ここに集うであろう未来の学生たちへ繋いでいかなければならないという責任を感じました。
 最後になりましたが、この記念特別対話講演を開催するにあたり、東京女子大学同窓会のご協力と、同窓会元副会長の依田勝子様に大変なご尽力をいただきました。末筆ながら厚く御礼申し上げます。

学長 茂里 一紘

瀬戸内 寂聴(せとうち・じゃくちょう)氏
1922年、徳島県生まれ。1943年、東京女子大学国語専攻部卒業。1973年、中尊寺で得度、法名「寂聴」。翌年、京都嵯峨に寂庵を結ぶ。1997年、文化功労者。2006年、文化勲章受章。2018年、第6回星野立子賞、朝日賞受賞。著作に『美は乱調にあり』のほか多数。『源氏物語』現代語訳。小説家としてあまたの賞を受賞。社会活動家としても知られる。
黒田 杏子(くろだ・ももこ)氏
1938年、東京都生まれ。1961年、東京女子大学文学部心理学科卒業。在学中、「白塔句会」で山口青邨に学ぶ。第一句集『木の椅子』で現代俳句女流賞、俳人協会新人賞。第三句集『一木一草』で俳人協会賞。2010年第一回桂信子賞。2011年句集『日光月光』で蛇笏賞受賞。著書に句集のほか『証言・昭和の俳句』(聞き手)など多数。俳誌「藍生」主宰。日本経済新聞俳壇選者。エッセイストとしても知られる。
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