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東京女子大学

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2023年度入学式を挙行しました

Mon.

4月3日(月)、東京女子大学講堂にて、2023年度入学式を執り行いました。

式では一人ひとりの名前を呼び、起立してもらいました。これは学生と教師がお互い一人ひとりの人格を尊重するという東京女子大学の基本的な考えによるものです。呼名の後、森本学長より式辞が述べられました。

式辞

東京女子大学に入学されたみなさん、おめでとうございます。本当は、みなさん一人一人にお会いして、お祝いの言葉をかけたいと思います。先ほど、みなさんのお名前をお呼びしました。それは、学生の一人一人を独立した一個の人格として扱う、という本学の伝統と決意の表現でもあります。

東京女子大学は、小さな大学です。大きな大学ではできない教育をするために、そうあり続けることを決意した大学です。学生を、ひとかたまりの集団として扱うのではなく、一人一人の存在を認めて、名前を呼ぶ。学生と教員とが、お互いを一人の人間として認め合い、リベラルアーツの自由な学びを一緒に経験する。それが、本学の伝統です。

この大学は、今から105年前、1918年(大正7年)に創立されました。ヨーロッパで始まった第一次世界大戦がいまだに続いており、そこへスペイン風邪の大流行が起こって、多くの人が命を失った時代です。そんな時代に必要な教育は何か。そのことを見据えて、本学は女子大学として創立されました。
ただしそれは、時代に合わせた女子教育ではありません。当時の世間一般が求めていた女性像は、男性の陰でお手伝いをし、男性に気に入られて結婚し、裁縫や料理をする良妻賢母です。本学が目指したのは、それとはまったく違う姿です。高い教養を備え、自分の知性で判断し、責任をもって行動する、自立した女性です。

初代学長・新渡戸稲造の言葉を紹介しましょう。「良妻賢母主義は、人間を一種の型にはめ込むようなものである。日本の女子教育は、女を男の付属品のごとく見ている。」——今から百年以上前の言葉です。人間を一種の型に嵌め込んだり、女を男の付属品のようにみたりしない。それが、今も変わらない本学の信念です。

ただし、心配しないでください。この大学を卒業すると、良妻賢母にならない、ということではありません。よい男性に出会い、幸せな結婚生活をする、そういう将来を思い描く人だっているでしょう。だから、新渡戸の言葉をもう一度聞いていただきたい。

彼はこう続けているのです。「一個の人間として立派に出来上がった人格ならば、妻としては良妻、母としては賢母である。」良妻となり賢母となるためにも、独立した知性をもち、自分で考えて判断し、行動する人格であることが必要なのです。
100年後の今日、女子大学の意義はどう変わったでしょうか。かつて本学が創立された頃、アメリカには200以上の女子大学がありました。今は40校ほどに減っています。しかし、それらの女子大学は、女子教育の意義を悟り、これからも女子大学であり続けることを選び取った大学です。いずれも伝統あるエリート校で、近年は志願者が減るどころか、むしろ増えています。

なぜでしょうか。それは、アメリカでも、男女の格差がなお根強く残っているからです。男性のいない教育環境で、どのグループでも女性が中心にいて、のびのびと活躍し、リーダーシップを発揮する。大学時代にそういう経験をすることが、その後の人生や職業において決定的に重要である。そのことを知っているからです。

日本社会は、この点ではるかに遅れを取っています。ご存じの通り、世界の国々と比べると、日本には男女の格差が圧倒的に残っています。政府も社会も、ようやくそのことを認識するようになりました。今こそ、この時代にこそ、日本でこそ、女子大学で学ぶことの意義は大きいと言わねばなりません。

わたしはここで、できればみなさんに、気楽な人生をお約束したいと思います。でも、それはできません。日本で女性の進出が遅れているのは、女性に問題があるからではなく、男性に問題があるからです。「女性の問題」といわれていることの中身は、実は男性の問題なのです。

もう一度、新渡戸学長の言葉を引用しておきます。「婦人が偉くなると国が衰えるなどというのは、意気地のない男の言うことだ。」まさにその通りです。この国で女性進出が遅れているのは、意気地のない男が多すぎるからです。

新渡戸学長は、「男女は織物のようなものだ」とも言っています。男子が縦糸、女子が横糸とすれば、どちらが弱くても、織物は強くならない。だからみなさんは、自分が強くなるだけでなく、時には意気地のない男とも協力して、よりよい社会を織り上げてゆかねばなりません。それは、けっして容易なことではないでしょう。でも、そういう勇気と努力なしには、日本の将来も、女性の将来も、閉ざされたままになってしまいます。

だからこそ、みなさんには自信と希望をもっていただきたい。時がよくても悪くても、変わることなく前進する信念をもっていただきたい。本学が百年あまりにわたって続けてきた時代への挑戦を引き継いで、ともに力を尽くしていただきたい。本学が創立以来、キリスト教の信仰を土台に据えてきたのは、実にそのためなのです。この世におもねることなく、時代に流されることもなく、自らの信ずるところに従って、確信をもって歩み続ける。それが、東京女子大学の誇りある学生です。

すべて真実なこと、すべて気高いこと、すべて正しいこと、すべて清いこと、すべて愛すべき事、すべて名誉なことを、また徳や称賛に値することがあれば、それを心にとめなさい。そうすれば、平和の神はあなたがたと共におられます。

今日からのみなさんの学びの上に、大学生活の上に、神の豊かな祝福を祈ります。


東京女子大学 学長
森本あんり