学長告辞
みなさんは、本学を卒業したことの意義を、まだ実感してはおられないでしょう。それは、これからの日々が十分に知らせてくれることと思います。けれども、今日わたしは、本学の卒業生であるということの意味を、一つだけお伝えしておきたいと思います。
昨年の夏に本学が全国の新聞や電車の車内広告で展開した「問いプロジェクト」のことは、覚えておられるでしょう。「感情がないはずのAIが女性差別をするのはなぜか」、「光源氏が現代に転生したらモテると思うか」、「有限と無限はどのくらい異なるか」など、容易に答えの出ない問いを投げかけ、考えてもらう企画でした。これらの問いは、その後も「東女クエスチョン」として継続的に論じられています。
「お淑やかな東京女子大学にしては、ずいぶん攻めた広告だ」と評判になりました。全体を見渡した客観的な集計結果を見る限り、世間の反応は圧倒的に好意的で、「こんな勉強をした学生がほしい」「自分も大学生に戻ってこんな勉強をしたい」「東女の学生は幸せだ」という声が多く寄せられました。ピーク時にはSNSでのコメントが一日あたり7000件を超えたこともあります。
ただ、このような広告では、内容にかかわらず、かならず否定的な反応が少しは出るものです。否定的な意見には、女子大学に対する差別的な感情が透けて見えるものが目立ちました。「しょせん女子大だから」「どうせたいした教育もしていないだろう」という偏見を前提にしたものです。逆に、そういうコメントを見て、「女子大ヘイト、今知った、ゆるさない」というコメントも出ていました。
昨年の夏に本学が全国の新聞や電車の車内広告で展開した「問いプロジェクト」のことは、覚えておられるでしょう。「感情がないはずのAIが女性差別をするのはなぜか」、「光源氏が現代に転生したらモテると思うか」、「有限と無限はどのくらい異なるか」など、容易に答えの出ない問いを投げかけ、考えてもらう企画でした。これらの問いは、その後も「東女クエスチョン」として継続的に論じられています。
「お淑やかな東京女子大学にしては、ずいぶん攻めた広告だ」と評判になりました。全体を見渡した客観的な集計結果を見る限り、世間の反応は圧倒的に好意的で、「こんな勉強をした学生がほしい」「自分も大学生に戻ってこんな勉強をしたい」「東女の学生は幸せだ」という声が多く寄せられました。ピーク時にはSNSでのコメントが一日あたり7000件を超えたこともあります。
ただ、このような広告では、内容にかかわらず、かならず否定的な反応が少しは出るものです。否定的な意見には、女子大学に対する差別的な感情が透けて見えるものが目立ちました。「しょせん女子大だから」「どうせたいした教育もしていないだろう」という偏見を前提にしたものです。逆に、そういうコメントを見て、「女子大ヘイト、今知った、ゆるさない」というコメントも出ていました。
今日、わたしがみなさんにお伝えしたいのは、そういうコメントの中の一つです。東京女子大学に対するネガティブな意見が出される中で、あえて自分が本学の出身であることを名乗り出て、堂々と意見を述べ、自分が書いた卒論や面白かった勉強の中身を紹介する、という人があったのです。そのツイートを受けて、「勇敢な女性だ」と言う人があり、その後ネガティブなコメントは急速になくなってゆきました。
その卒業生がいったいどういう人なのか、詳細は知りません。しかしわたしは、東京女子大学が目指していたのは、こういう卒業生を送り出すことだった、と改めて強く実感いたしました。世間の脅しに負けず、差別に屈しない女性。逆風の中でも、怖れずに立ち上がり、自分の考えをはっきりと言える人。わたしは、この卒業生のことを心から誇りに思います。
もちろん、誰もがいつも、そんな勇気を発揮しなければならない、というわけではありません。できれば、そんな必要のない社会になってほしいと思います。でも、どんな人生を歩むにせよ、人間の生涯にはごく稀に、生涯に1度か2度、そういう瞬間が訪れるものです。そして、そういう瞬間の決断が、世界を少しずつ変えてゆくのです。
その卒業生がいったいどういう人なのか、詳細は知りません。しかしわたしは、東京女子大学が目指していたのは、こういう卒業生を送り出すことだった、と改めて強く実感いたしました。世間の脅しに負けず、差別に屈しない女性。逆風の中でも、怖れずに立ち上がり、自分の考えをはっきりと言える人。わたしは、この卒業生のことを心から誇りに思います。
もちろん、誰もがいつも、そんな勇気を発揮しなければならない、というわけではありません。できれば、そんな必要のない社会になってほしいと思います。でも、どんな人生を歩むにせよ、人間の生涯にはごく稀に、生涯に1度か2度、そういう瞬間が訪れるものです。そして、そういう瞬間の決断が、世界を少しずつ変えてゆくのです。
ふだんは物静かで、特に何も言わない。めったなことでは声を上げない。でも、そういう人だからこそ、どうしてもここだけは譲れない、という時に語る言葉は、聞く人の心に響くものです。自分の得になることではない。でも、もしここで何も言わなかったら、自分は生涯後悔することになるだろう。
それが、創立以来本学が言い伝えてきた“Something”です。今、それが何であるかをはっきり言うことはできない。ただ “Something”としか言えない。でも、ある日ある時、本学の卒業生としての誇りが、いや女性として、人間としての尊厳が、試される時。その時、みなさんの心の奥に蓄えられた何かが大きな力を発揮するのです。
東京女子大学が創立以来目指してきたのは、そういう女性を送り出すことです。世の中の風に流されず、「すべて真実なこと」を追求する人。自分の知性と意見をもった、独立不羈の人。それが、今も変わることのない、本学の静かな挑戦です。
みなさんは、今日からその挑戦に参加するのです。卒業おめでとう。
それが、創立以来本学が言い伝えてきた“Something”です。今、それが何であるかをはっきり言うことはできない。ただ “Something”としか言えない。でも、ある日ある時、本学の卒業生としての誇りが、いや女性として、人間としての尊厳が、試される時。その時、みなさんの心の奥に蓄えられた何かが大きな力を発揮するのです。
東京女子大学が創立以来目指してきたのは、そういう女性を送り出すことです。世の中の風に流されず、「すべて真実なこと」を追求する人。自分の知性と意見をもった、独立不羈の人。それが、今も変わることのない、本学の静かな挑戦です。
みなさんは、今日からその挑戦に参加するのです。卒業おめでとう。