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東京女子大学

リベラル・アーツ教育が育む新しいリーダーシップ

東女時代から今に至るまでの ストーリー

茂里 お二人の在学中のお話から、今の仕事内容までのお話をお聞かせください。
鷹野 私は日本文学科で古典文学、特に『源氏物語』を深く学んでいました。当初は国語の先生になるつもりだったのですが、 10 代という多感な時期に先輩方のお話を伺っているうちに刺激 を受けて大きく未来が変わりました。消費者の近くでマーケティ ングに関わりたいという思いが生まれたので、卒業後は民間会 社に就職し、食品会社や外資の化粧品会社などで働いてきまし た。「ロクシタン」では 16 年間社長職を務め、現在は自身でプ ロジェクトマネジメントの会社を立ち上げ、さまざまな企業に 新規事業に関するアドバイスを行っています。その他数社の社 外取締役も務めています。
及川 私は英米文学科で学んでいました。実は私も鷹野さんと 同じように教員志望だったんです。一生働きたい、と思っていましたので。ですが「一般企業でもここなら女性が活躍できる」と考えて今の会社に入社したところ、思いの外、仕事が面白くなってしまいました。そのまま勤続約 30 年を迎え、今年から社長となりました。
茂里 お二人は寮生活を送られていたそうですね。学生生活はいかがでしたか。
鷹野 寮はとても楽しかったですね。温かく厳しく先輩から多くのことを教えていただいたことを今でも鮮明に覚えています。 寮は学生による自治制だったので、ここで自主自立の精神を身に付けることができたように思います。大学の 4 年間では「自分は何が好きで、何に向いているのか」ということを徹底的に考え、探すことをしました。学生時代にとことん深く思考する 時間を持てたことが、その後の自分にとって大きな財産となっています。
及川 私が寮生活を送っていたのは 1 年間だけでしたが、「自律せよ」「自ら考えよ」という自己責任での思考もリーダーシップ をとる上での大切な教えとなりました。寮では先輩と二人部屋 だったので、実生活では長女である私にお姉さんのような存在 ができたのもうれしい思い出です。Service and Sacrifice の精神 も大学時代の 4 年間で刻み込まれました。行動に見返りを求めてはいけないという意識はこの時に強くなったと思います。勉 強もサークル活動も思う存分打ち込んだという感じで、早稲田 大学と合同のソフトボールサークルでは男女関係なく泥まみれ でボールを追っていました。学びの面では、女性文学を学んだことで、ジェンダー問題や女性の自立についての視点を得られ、化粧品会社という今の仕事にとても役立っています。
茂里 お二人にとって仕事の魅力はどういう点にありますか。
鷹野 私は、世の中に新しいものが生まれてそれが人を幸せに するということがとても好きなんです。長い職業人生の中では、新規事業の立ち上げを数多く行ってきました。これまで長らく社長として主体的に経営を行っていましたが、今は事業コンサ ルタントとして客観的に各社の経営に携わることでビジネスの 本質をさらに理解できることがやりがいにつながっています。ですが立場が変わっても、いつも私を支えてくれるのは「人知れず自分が携わった仕事が、きっとどこかの誰かのためになっている」という思いです。お客さまに喜ばれること、部下が成長していくこと、コンサルタントを手掛けた企業が業績を伸ば しみんなで喜び合ったこと。時にはお客さまからご丁寧にお手 紙をいただくこともありました。これら全てが私にとって最大の喜びとなっています。
及川 私も「誰かの役に立ちたい」という思いを強く持っていて、その点は本当に鷹野さんと同じです。その対象はお客さま の他にも社員やビューティーディレクターというビジネスパートナーであったりするのですが、社長としてマネジメントに身を置くことで、役に立てる範囲が大きくなるとともにやりがい も大きくなりました。経営とは社会の在り方、人間の営み、自社が持つ有形無形の資産を総合的に考えて未来を作り出す仕事だと思っています。特に弊社は化粧品会社なので、女性の自立 と自己肯定をサポートしながら女性の役割を高めていくことができるという点も魅力だと感じています。 

ビジネスに生きるリベラル・アーツ

茂里 お二人が学んでこられた文学をはじめとして、歴史・哲学・芸術といった「教養」の分野は現在では「リベラル・アーツ」 として新たに見直されています。本学でも「現代教養学部」と してリベラル・アーツを教育の柱に据えていますが、お二人にとって本学での学びはどのように生かされているでしょうか。
鷹野 先ほども少し触れましたが、私はもともと教員になるつ もりで、文学がビジネスに役立つとは全く考えていなかったの です。ところが就職して、一番初めに担当した商品開発、マー ケティングの仕事では、日本人の美意識や価値観といった『源 氏物語』から得た学びが意外なことに非常に役立ったのです。 その後私はロクシタンというフランスの化粧品会社の日本展開 に携わりましたが、そのブランディングも同様です。それは「和風」にするということではなく、ロクシタンが訴えるプロヴァ ンスの文化から日本人の琴線に触れる部分を抽出して、日本人が受け入れやすい世界観に翻訳していくといった作業です。例えば、ダイレクトメールにプロヴァンスの名産品のラベンダーの?花束を同封してお客さまに喜んでいただいたこともありました。当時のロクシタンはブランドを立ち上げたばかりだったので、その後の世界展開にも日本が大きく影響を与えました。もし私が『源氏物語』を学んでいなかったら、世界各国のロクシタンは現在のような形にはなっていなかったかもしれません。それぐらいリベラル・アーツの学びはビジネスに直結しています。
及川 私の場合は社会のグローバル化の観点からリベラル・アーツの価値を強く感じています。弊社はどちらかというと国内向けの市場に強みを持っているのですが、今の日本にはすでに多くの外国人の方々が暮らしています。日本だけに意識を置いた従来型の発想ではもはや企業活動が立ち行かなくなっているのです。その時に、文学から他者の考えをトレースしたり、歴史から時代の変化の捉え方を学んだりといったリベラル・アーツによる多元的な視点が役に立ちます。実はリーダーになってからの方がさらにその重要度は増しており、昨年は新たに学び直しました。弊社にとっても、人の心や社会の在り方を知ること は重要です。マネジメントやマーケティング方針の策定など、 リベラル・アーツはビジネスに大いに必要となっています。
茂里 本学は建学以来 100 年にわたりリベラル・アーツ教育に 力を入れてきました。今のお話のように変わりゆく社会の中で、多様な価値観を横断的に学ぶことのできるリベラル・アーツ教 育は人間が生きる上での「体幹」を鍛えているという思いです。
リベラル・アーツはこれまで「変化に対応する力」となってき ました。それがさらに進んで、これからは自ら「変化を生み出す力」となっていくと思います。それを本学では「未来につなぐリベラル・アーツ」という言葉に込めています。
及川 おっしゃるように、今は新型コロナウイルスの影響なども含め先行きの予測困難な VUCA(Volatility: 変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖 昧性の頭文字)の時代と言われています。その中で、リベラル・ アーツは新しい時代を生きるための武器であり、判断の軸でもあるんですね。
茂里 本学は「現代教養学部」という学部名を掲げています。“現代”というところが大切で、常に「今」を更新し続ける生きた学びなのです。経団連の『採用と大学教育の未来に関する産学 協議会』でも「来るべき Society5.0時代に必要な能力はリベラル・ アーツ教育にあり」といった趣旨のことが提言されており、リベラル・アーツはさらに存在感を増していくと思います。
鷹野 リベラル・アーツを真に生きた学びにするためには深く 思考していくことが重要だと思います。ただ本を読んでいるの ではダメで、本を読んでいる時に何を感じ、考えたのかということで知識が血肉となっていくのではないでしょうか。
及川 知識は鋼のようにたたいて「知恵」にまで鍛えあげないといけない。私がここの大学で良かったと思ったのは、少人数 制のクラスの中でディスカッションを多く経験して自分の意見を持つ習慣を身に付けたことです。社会が変わっていく今、知識をうのみにするのではなく「問う力」を持つことはとても重要になっていくと思います。 

個性を生かす、これからのリーダーシップ

茂里 現在お二人は社長として企業のリーダーを務めておられます。これからの社会におけるリーダーシップについてどのようにお考えでしょうか。
鷹野 私は社長の仕事を通算18年ぐらい続けていますが、「良いリーダーとはなんだろう」とずっと考えています。一つ言えるのは、リーダーにとって最も大切なのは、確固とした意志を持って「皆さん、こっちへ行きますよ」と方針を示すこと。リーダーとは、考えに考え抜いてみんなを幸せな場所に連れていく道を示せる人のことだと考えています。責任を持って決断することがリーダーシップの本質なので、見た目のスタイルは人それぞれでいい。「俺について来い」といった従来型のリーダー像にとらわれる必要はなく、おとなしく控えめなリーダーがいてもいいんです。個人的には、この「ものすごく考える」という部分に学生時代に培った基盤が反映されていると感じています。
及川 リーダーシップとは「永遠の旅」のようなものなのでゴールはありません。「どんなビジョンに向かうのか」という決まった答えがないことを24時間考え続けて「決める」こと。その決断のために先人の知的財産をヒントにすることはとても多いのです。例えば今回のコロナ禍に際してはカミュの小説『ペスト』を読み返し、このような時に人間はどう考え行動するかなどに ついて考えを深めました。リベラル・アーツは参考文献の宝庫であり、リベラル・アーツを学ぶことは「決断」の準備だとも言えます。
茂里 お二人とも共通してリーダーシップに「責任ある決断」というポイントを見いだされています。
鷹野 はい。そこには性別や年齢といった属性は関係ないと考えています。女性はこうだ、男性はこうだ、という思い込みが 一番よくないと思いますが、実は女性自身が、その思い込みにとらわれていることが多いようです。性別にとらわれず、しっかり自己分析して得意なことを伸ばしていけば活躍の機会はたくさんあると思います。
及川 各国の男女格差を示す「ジェンダー・ギャップ指数 2020」において、対象国153カ国のうち日本は121位という結果が出ています。つまり日本はまだまだ女性の能力が埋もれている国ということです。この現状を変えていくには、まず女性自身が、女性の能力を過小評価する認知バイアスから自由になり、積極的にリーダーを輩出しなければいけないと考えています。なぜここまで男女格差が大きいかというと、社会の中で女性の意思決定者が圧倒的に少ないからです。まずは女性が経済力や責任あるポジションを得て意思決定参画者となることが重要だと思います。その際にも知の体幹となるリベラル・アーツの重要性 を痛感しています。 

可能性の扉を開いて ~若き東女生たちへ贈る言葉

鷹野 学生の皆さんには、仕事をすることの素晴らしさをお伝えしたいと思います。私自身、誰かの役に立ち、社会に貢献し、仲間と目標を達成していく喜びは人生の大きな幸せだと感じています。ですから皆さんにも、自らリーダーシップを発揮して仕事ができる社会人になっていただきたいと思います。
及川 行動には常に失敗がつきものですが、私は「失敗した者勝ち」だと思っています。失敗はたくさんしておいたほうがその後のレジリエンス(再起力)が高まるからです。若い皆さんにはたくさんの可能性があります。恐れることなく、自らの手で可能性の扉を開けて進んでください。
茂里 リベラル・アーツとは最短距離の一本道ではなく、どこに向かってもいい、その自由さの中から実りが生まれるものだと考えています。本学の学生には、在学中に冒険や失敗といった経験をたくさん積んで、そこから真のリーダーシップをつかみ取ってもらうことを願っています。今回はそのロールモデルともいうべきお二人にお話を伺いました。本日はどうもありがとうございました。