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東京女子大学

ストーリー

[在学生]

心理学の学びや異国での生活から多文化理解の心を養う

心理・コミュニケーション学科コミュニケーション専攻3年<取材時の学年>韓国 Kyunggi Girls’ High School 出身

キリスト教の精神に基づく大学で
多文化を複眼的に学ぶ点に惹かれて

“One size doesn’t fit all.—一つのサイズがすべての人に合うわけではない—”。これは私がいつも心に刻んでいる英語のフレーズだ。

日本で働く叔父や、先に日本に留学した兄の影響を受け、「私も日本に留学したい」と思うようになった。韓国で高校3年生の時から、留学に向けた入試対策の塾に通学。その塾で紹介されたのが東京女子大学だ。

叔父は牧師をしており、私もクリスチャンの家庭で育ったのでキリスト教には馴染みがある。東京女子大学がミッション系大学であることは、慣れない日本での生活の支えになる気がした。

それに、もともと旅行が好きで、韓国とは違う文化を持つ国、違う文化を学ぶことに関心があった。ミッション系の環境で多文化を幅広く学べること。それが東京女子大学に惹かれた理由だ。

1年間の浪人生活で、日本語を集中的に学び、晴れて留学生向けの入試に合格。しかし、時はコロナ禍だった。最初の1年間は入国さえできず、オンライン授業だったが、私はすべての授業に追い付こうと必死だった。「外国人だから間違えても仕方がない」「多少のミスは当然」と思われること、日本語にハンディキャップのある人として扱われることが嫌だったのだ。

日本人と平等に見てもらいたい—。私は人一倍勉強した。その甲斐あって良い成績を出せるようになると、「大学生活を意義深いものにしていきたい」とより強く感じるようになっていった。

心理学の授業を通し、
多文化理解の多元性に気付く

入国できたのは、大学1年が終わる頃だ。2年次からは日本での授業に出席できるようになった。暮らし始めて一番感じたのは、やはり文化の違いだ。

「韓国人って感情を隠さないよね」とは、親しい日本の友人の言葉。確かに日本人は、例えば一緒にご飯を食べる時でも「何でもいいよ」と人に合わせるし、嫌な相手にも怒りを表現しない。対して韓国では「〇〇が食べたい」とはっきり話すし、ネガティブな感情を伝えることもある。

こうした日常生活の些細な出来事はもちろん、大学での学びも、違った視野、価値観の違いに気付かせてくれた。
「こどものこころ」の授業では、幼少期の環境の違いが成長と思考に及ぼす影響を知り、「司法・犯罪心理学」の授業では、罪を犯した少年の中には経済的に困難を抱える家庭で育った人が多いことを学んだ。全学共通カリキュラムの「こころと社会」という授業では、日常生活の他者との関わりの中で、私自身の経験や感情がどのように形成されているのか、自己や他者理解の形成に、何が影響を与えているのかを学ぶことができた。

入学前は、多文化を「国と国との違い」と捉えていた。しかし、同じ国の中でも皆、一人ひとり異なるのだ。誰もが違った価値観を持っていること。それを受け入れて暮らすことの大切さを私は体感するようになった。

更生施設でのボランティア活動に参加

司法・犯罪心理学の授業で先生に紹介され、非行少年の更生を支援するボランティア団体に参加している。

参加のきっかけは、犯罪心理学の授業で、罪を犯した少年の中にはひとり親家庭など経済的に困難を抱える家庭で育った人が多いと聞いたことだ。

学生時代、心が不安定だった私は、罪へと誘惑される心の揺らぎを自分自身にも感じていたことを思い出した。彼らの心を完全に理解することは難しくても、ある程度は理解できるかもしれない。だからこそ、少しでも彼らの力になりたいと思ったのだ。

だが、活動はとても難しかった。

友達同士なら授業の話や恋人の話など、たわいもない話ができるが、彼らとは共通点が乏しい。何をどうやって話しかければいいのかわからない。心を開いてもらおうと思えば思うほど、自分の日本語能力の拙さを感じ、自信を失くしてしまった。

それでも続けたのは、ある教授の言葉がきっかけだ。

「外国人だからこそ、与えられる良い影響があるかもしれない」。

そうか。韓国人であっていい、私は私のままでいいのだ。それからは、「少年たちの話を聞こう、聞かなければ」という構えが取れ、気軽に自分の話ができるようになった。今日食べた食事の話だったり、授業の話だったり、たわいもない些細な日常のこと—。次第に、少年たちもまた、よく話す子、話さない子、みんな違っているのだという当たり前のことに気が付いたのだ。

キリスト教の教えに「隣人愛」というものがある。「自分を愛するのと同じように人を愛しなさい」という教えだ。日本に来るまでは、この教えの意味がよくわかっていなかった。でも今なら少し理解できる。

愛するためには、周囲の人の違いを認めなければいけない。自分自身の考えや価値観を否定せず、認め、愛するのと同じように、相手の価値観を認めるということだ。

すべての人の価値観や行動を一つひとつ尊重し、受け入れて生きていきたい。

“One size doesn’t fit all.”

東京女子大学での異なる文化や思想との出会い。それは知識の範囲を広げるだけでなく、物事への深い洞察力と、一人ひとりを尊重する多文化理解の重要性を教えてくれたと思っている。