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東京女子大学

ストーリー

[在学生]

心理学の知見を生かし生きづらさを抱える人々の力になりたい

心理・コミュニケーション学科心理学専攻4年<取材時の学年>神奈川県・私立フェリス女学院高等学校 出身

始まりは、自分でもコントロールできない
複雑な「心」への興味

「何であんなこと言ったんだろう」。昔から自分の発言や行動を振り返り、後悔することが多かった。心理学を学んだら、複雑な心の動きを理解し、反省を繰り返す日々から抜け出せるかもしれない。それが、この分野に興味を持った最初の理由だ。

そんな折、高校でさまざまな社会問題に触れる授業があり、心理学が教育や人間関係など幅広い領域に関係していることを知った。自分ですら分からない「自分」とは、「心」とは何なのか。そして「心」は、世の中とどのように関わっているのか。その答えに近付きたくて、心理・コミュニケーション学科に進学を決めた。

学び始めて驚いたのは、心理学が想像以上に日常と密接に結び付いていること。一見無関係に見えても、注意深く観察すると「これは授業で習ったことだ」「この考えは、あの問題にも通じるのでは」という点が必ずある。日々の暮らしの中、目にするニュースの中に無数の気付きがあり、新たな発見が連鎖していく感覚が楽しかった。

一方、自分の日常の外にある課題に目を向けるきっかけになったのが、専門以外の学びだ。子育てに関する授業では、産後うつの問題やシングルマザーの苦悩、男性の育児参加を阻んでいる構造的な要因を知った。国内外の福祉制度を扱った授業では、どこかで「自分はまだ関係ない」と思っていた各種制度の必要性を痛感した。

もともと家系に公務員が多く、入学当初から「自分も地域住民を支える公務員になりたい」という思いがあった。これらの科目は、心理学への視点をより立体的にしてくれただけでなく、その漠然とした夢を、確固たる決意に変えてくれたと感じている。

ネガティブ感情を受け入れるための
「心理的居場所感」に着目

授業はどれも面白かったが、不思議と苦労したものほど印象に残っている。3年次に、心理学の代表的な調査法である「質問紙調査」を4人1組で行った時のこと。テーマ決め、仮説の立案、質問紙づくりから配布、結果のまとめに至るまで、初めて全てを自分たちで行った。意見がぶつかったり、作業分担に苦戦したりと一筋縄ではいかなかったけれど、その分達成感が大きかったのを覚えている。

現在は臨床心理学のゼミで、大学生における「ネガティブ感情の受容」を題材に卒業論文を執筆中だ。ネガティブな感情を受け入れるには、どうしたらいいか。感情の受容については、人の成長過程に伴う変化を追う発達心理学の分野で研究されることが多いが、大学生にもなると、そう簡単に根本的な環境が変えられるわけではない。そこで、近年注目を集める「心理的居場所感」に着目した。

物理的な居場所感だけでなく、心理的な居場所感、つまり誰かに受け入れられている安心感や心の支えになる関係性があれば、負の感情を受け入れやすくなるのではないか——。そう考え、今回の論文では「親友」の重要性に焦点をあてて論じている。

生きづらさが生じる状況を
事前に防ぐための環境づくりに携わりたい

卒業論文は、図らずも悩むことが多かった過去の自分とつながるテーマになったが、私自身は心の仕組みを多角的に学んだ4年間を経て、以前より自分にも他者にも寛容になれたと思う。それは、自分の性格が原因だと思っていたことも、その他の要因が影響している場合があると分かったから。そして、他者の行動の裏にはそれぞれの事情や感情があることも、さまざまな事例を通して知ったからだ。

でも同時に、「他者の心を完全に理解することはできない」と思うようにもなった。授業で触れた当事者の語りの中には、正直共感できないものもある。でも、分かり合うことがゴールじゃない。違いを知った上で、どう付き合っていくかだ。今はそう考えている。

念願かない、卒業後は都内の区役所で働く。授業の一環で、障がいや心理的苦痛を抱える人々と、当事者を取り巻く環境についても学んできた。自身の生きづらさが和らいだ今、今度は自分が生きづらさを抱えている人の力になりたい。そうした状況を未然に防ぐ環境づくりに貢献したい。完全に分かり合えなくても、街に暮らす全ての人々を尊重し、支えていきたい。それが、心理学と向き合ってきた私にできることだと思うから。

東京女子大学を選んだことを、後悔した瞬間は一度もない。学科には同じような悩みを共有できる友人たちがいて、優しく真摯に指導してくださる先生方がいる。女子大ならではの、あらゆる個性を受け入れ、誰もが伸び伸び活躍できる風土がある。この大学で得た全ては、きっとこの先も私の大きな心の支えになるだろう。