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東京女子大学

ストーリー

[卒業生]

好奇心を自制しない。地位や目立つことに左右されず、自分の人生を生きるために

1998年 文理学部 史学科(当時)卒業 エフピーウーマン代表・ファイナンシャルプランナー 大竹のり子

1998年に東京女子大学文理学部史学科を卒業したファイナンシャル・プランナーの大竹のり子さん。金融経済や経営などの書籍を専門に扱う出版社に就職し、ファイナンシャル・プランナーの資格を習得。フリーランスのライターを経て、2005年に女性の仲間たちと、女性とお金の関係をより良くするための会社、株式会社エフピーウーマンを立ち上げました。

仕事をするうえで、「女性」という視点にこだわってきたという大竹さん。その原体験は東京女子大学で過ごした学生時代にあったといいます。働き始めたばかりの頃の多忙な日々や、女性である自分が仕事を続けるうえで感じた葛藤、結婚や出産など、転機となる経験を踏まえて大切にしたいと気付いた「女性と社会のつながり」について、じっくりお伺いしました。自らを「静のタイプ」と話す彼女が一つひとつ切り拓いてきた道には、自分に合った方法で進路を照らしていくヒントがありました。

女子大での学びと就職を経験して、女性が生きるうえでの価値観の狭さを解決したいと思うようになった

ー大竹さんは「女性」という視点を大切にして仕事をされていらっしゃいます。その原点が大学にあるということですが、なぜ東京女子大学を選んで進学されたのでしょうか?

大竹:地元で通っていた高校が、昔、男子校だった名残のあるバンカラ※1な校風だったんです。実際に生徒も男子だらけだったので、その反動なのか、男性的な社会から全然違う世界に行ってみたいという思いがありました。今思うとふわっとした動機なのですが(笑)、私が入学した年の大学案内の表紙が素敵だったことが理由で、東京女子大学に進学を決めたんです。正門を入ったところに広がる芝生の中庭で、すごく髪のきれいなセンター分けのヘアスタイルの女性がロングブーツを履いて闊歩している姿の写真。その写真が、「今までと違う世界に飛び込みたい」という当時の私の思いに応えてくれているようでした。初めて東京での一人暮らしをする不安のなかで、授業が少人数制でアットホームであるという点にも安心感があって、そこにも大きく惹かれました。

大竹のり子さん

ー環境の変化が大きかったのではないかと思いますが、大学生活を送るなかで新たな気付きはありましたか?

大竹:それまでとは正反対とも言える環境に身を置いたので、やっぱり性差について考えるようになりましたね。時代のムードとしては「もっと女性が社会進出を」ということが謳われていましたし、大学ではジェンダーについて学ぶ科目もありました。ただ周りの友人たちを見渡すと、もちろん一人ひとりの個性には違いがあるものの、「結婚して仕事をやめて、家庭に入る」という将来像を持っている人が想像していたよりも多くて。そこは小さな衝撃でしたね。

ー個人差はあると思いますが、1990年代後半に大学生だった方々の幼少期の状況を考えると、まだ女性は家庭に入るという社会通念のなかで育ってきたことも影響しているかもしれませんね。※2

大竹:その大学時代の小さな衝撃と、実際に社会に出てから「社会構造のなかで女性はこういう存在として置かれるんだ」という実体験、その二つを掛け合わせた時に、女性が生きていくうえでの、社会と個人それぞれの価値観の幅の狭さとでも言うのでしょうか、そういったものをもっと解放できたらいいなという気持ちが生まれたことが、「女性という視点を大切にして仕事をしよう」といった思いにつながっています。

30年先の理想より、半歩先の好奇心で行動する。点と点が線になって拓けた道

ー社会に出てからの実体験も現在につながっているということですが、大学卒業後はどんなお仕事をされていたのですか?

大竹:金融経済や経営などの書籍を専門に扱う出版社に就職しました。中学生の頃から新聞記者やジャーナリストなど、世の中を取材してものを書く仕事に就きたいと思っていたんです。でも、いざ就職活動となった時に、私は性格的に「静」のタイプなので、なにか直接的に世の中に物申したり、自分の個性で表立って活動するよりも、裏方で誰かをサポートして、間接的に世の中に影響を与えるような仕事のほうが向いているなと思うようになって。そう考えて、いろいろな領域のプロフェッショナルである著者の知見を世の中に送り出せる「編集者」という道に進みました。ファイナンシャル・プランナーの資格を取ったのも出版社に勤めている時です。

大竹さんが開発や監修を行った、お金について学ぶための教材の数々。

ーなぜ資格を取ろうと思ったのですか?

大竹:私は史学科の出身なので、金融や経済はまったくの素人。そこで編集者として仕事をするのに必要な金融や経済の知識を幅広く身につけるためにはどうしたらよいのかと、いろいろ調べていた時に目にしたのがファイナンシャル・プランナーという資格でした。この資格に出会った時に、お金って誰の生活にとっても絶対に切り離せないものなのに、勉強してこなかったなと気付いたんです。当時、ファイナンシャル・プランナーは日本ではまだまだマイナーな資格だったのですが、アメリカではとてもメジャーで活躍している人がたくさんいると知って可能性を感じましたし、知識を仕事にも生かせて一石二鳥だなと思いました。

ー実際にファイナンシャルプランナーは日本でもメジャーなお仕事になってきていますし、先見の明があったのですね。

大竹:いえ、私は良くも悪くもあまり計画的ではなくて(笑)。ゴールがあってそこに向かって戦略的にやっていく、というよりも、ほんのちょっと、せいぜい半歩先くらいまでしか先回りができないタイプなんです(笑)。たとえば30年後にこうありたいから逆算してこうしようということは考えていませんし、そもそも30年後の世の中や自分が今想像できるなかに収まるとも思っていません。ただ、現在地から次のステージにスムーズに移行していくための行動は常に意識してしていきたい。だから、その場その場での出会いの意味を常に考えて、次にとるべき行動を考えるようにはしています。

—働き始めた頃は、忙しい日々を送っていたそうですが、そのなかで資格を取ることに足踏みはしなかったのでしょうか? 大竹さんのそのフットワークの軽さはどこからくるものなのでしょう?

大竹:シンプルな好奇心だと思います。そしてその好奇心を自分のなかで押し殺さないこと。好奇心があっても「失敗が怖い」とか「こんなワガママ言えない」「環境が許さない」と自制してしまう人も少なくありませんが、今置かれている環境に自分をステレオタイプに当てはめたり、これまでのキャリアとの分断を恐れたりする必要はないと感じます。そもそも、共通のロールモデルがあって、順番に階段を上がっていけば順調にいくという時代でもないので、やりたいと思ったことは「点」でいいから片っ端からやってみる。すると、そのうちそれぞれの点が線になっていくんですよ。

やり残したことがない人生にしたいから、他人の価値観で生きるのは嫌だなと思っています

ーその場での出会いを大切にして、ファイナンシャルプランナーの資格を取って以降、お仕事はどのように変化しましたか?

大竹:資格を取って、その後結婚して。仕事もそのまま続けるつもりだったのですが、勤め先の環境がそれを許してもらえる状況にはなくてやむなく退職しました。それからは派遣社員として雑誌編集をしていたのですが、いつも帰れるのが終電に間に合うか間に合わないかくらいの時間で、とにかく忙しかったんです。子どもがほしいなと思っていたので、それこそ「半歩先」を考えたときに、妊娠して、出産して、育児をしながらこのままの働き方を続けるのは、体力的にも、派遣社員という契約形態からしても難しいだろうなと感じていました。そこからほどなく妊娠したのを機に、お金に関する知識を強みにしたフリーランスのライターになることにしました。

ーまさに次のステージに移行するための選択ですね。結婚や出産を機に、働き方とライフスタイルが合わなくなってきたり、職場での立場が変わってしまったりということで悩んでいる女性は未だに少なくないと思います。

大竹:そういった悩みは今の仕事をしていても本当によく耳にします。解決の方法は人それぞれだと思うのですが、私の場合は、なにか自分の意に反する状況に追い込まれた場合には、その流れに逆らって戦うのではなく、そこにはあまり固執せず、別の形で自分らしさを活かす方法を考えたい。「人生は1回しかない」といつも思っていて、だからこそ、その1回の人生の時間を大切にしたい。権利を主張して居場所を確保するやり方も時に必要だと思うのですが、自分が心地よくいられる場所にいたいんです。まずは自分が幸せを感じられていないと、人になにかできる余裕は生まれてこないと思うんです。だから、環境的な壁にぶちあたった場合には、流れに逆らわず、どうしたら自分が心地よくいられるか、自分らしくいられるかという原点に立ち戻って別の形を模索するのも一つの解決方法だと思っています。

ーさきほど大竹さんはご自身のことを「静」のタイプだとおっしゃっていました。前に出ていく「動」のタイプの人のほうが光が当たりやすい現在の社会のなかで、大竹さんはご自身の性質とどのように向き合っていますか?

大竹:社会的な地位や収入、自由な時間、自己実現など、人生においてなにに価値を感じるかは、本当に人それぞれだと思うんです。私の場合、人生、特に仕事において大事にしたいと思っているのは「自分が正しいと思うことが心地よくやれているかどうか」。これに尽きます。社会的な地位とか、目立つ存在であるかどうかとか、人からどのように思われているかなどは全然気にしていないです。人生のなかでかなりの時間を費やす「仕事」だからこそ、自分の内面に素直でありたい、社会的な地位や評価など他人の価値観で生きるのは嫌だなと思っています。もちろん、そういった社会的な地位や評価が自己承認へとつながるという場合は、それも価値観の一つですから、それでも全然いいと思います。でもたまたま私の場合はそうではなく、自分の内面に価値がある。だから自分が「動」のタイプではないことになにか引け目を感じたことはありません。

自分も「社会でなにかやりたい」と集まってきた主婦の仲間たちがいたから、会社を立ち上げた

ーフリーランスから株式会社エフピーウーマンとして法人化したのも、自らの心地よさを追求したいという思いが発端なのでしょうか?

大竹:法人化も、実はぜんぜん計画的なものではなくて(笑)。フリーランスとして仕事をしている中で、いよいよあと1〜2週間で長女が生まれる、というタイミングになって、このまま産んじゃったら、フリーランスとは言えども、取材に行くこともできないですし、しばらくは家にこもる生活になるなと思ったんです。それで、ほんの数日の突貫工事で、「FPwoman」というWebサイトを立ち上げました。
 

—出産1、2週間前ですか!

大竹:もうほんと直前に(笑)。ファイナンシャル・プランナーという資格を活かして仕事をするという軸は出版社を退職後ずっと一貫していたのですが、出産でしばらく家にこもらざるを得ない、となったときに、ふと「これ、もしかして私のような人がほかにもいるんじゃない?」と思ったんです。私は金融業界の出身でもないので、資格はあってもファイナンシャル・プランナーの知り合いが1人もいない。なにかしたい気持ちはあるのになにもできない。そこで、私のような人がほかにもいるんじゃないかと思い、このWebサイトに「一緒になにかやりませんか? 交流しませんか?」と書いたら、ファイナンシャル・プランナーの資格を持つ女性がワーッと30人くらい集まったんです。

—集まった女性たちはどういう方々だったのですか?

大竹:いわゆる偏差値の高い大学を卒業して、就職して、結婚して今は専業主婦、という人が多かったです。世の中には、なにかやりたい気持ちを持て余している主婦の方々がこんなにいるんだと驚きました。それこそ大学時代に、「結婚して仕事をやめて、家庭に入る」という将来像を描いていた友人たちの「今」がそこにあったんです。そして、長女の育児をしながらメーリングリストでやりとりをする中で勉強会やセミナーなど色々な企画が生まれ、開催され……。彼女たちの行動力とパワーを感心して眺めていたら、気づけば「会社を作りたい」という話になって。私は人前に出るのも得意ではないですし、起業なんて考えたこともなかったので困りました(笑)。でも、彼女たちの「なにかやりたい」というエネルギーと、さっきお話しした「裏方でサポートしたい」という気持ちとがつながって、一度は主婦になったけれど、自分のやりたいことを見つけて社会に復帰したいと考えている女性がこんなにたくさんいるんだったら、むしろ彼女たちを主役にして社会復帰のロールモデルとして表に出てもらったら、社会に新しい風を吹き込めるのではないか、と思ったんです。最初の3年間は私のフリーランスとしての収入をぜんぶ会社に入れるから、その3年の間に自分たちのお給料を自分で稼げるようになってね、と約束をして4人のメンバーで会社をスタートしました。これが長女が生まれてから2年後、次女が0歳の時の話です。

大竹のり子さんのインタビューはエフピーウーマンのオフィスで実施

ー大竹さんはファイナンシャル・プランナーとしてさまざまな女性から話を聞くと思うのですが、「女性とお金の関係」にはどういう課題があると思いますか?

大竹:結婚退職という言葉は最近あまり聞かなくなりましたが、それでも出産や転勤をきっかけに仕事を辞めざるを得なかったり、子育てや親の介護で思うように仕事ができなかったりとライフプランの変化ので収入面での犠牲が生まれやすいのが現実です。また、専業主婦家庭の場合、夫婦の役割分担によって家庭生活が営まれていたとしても、貯蓄の名義は大黒柱である男性になっている場合がほとんど。そうなると、実親の介護でお金が必要だけれど夫名義の貯蓄から出しにくいとか、離婚したいけれど自分の貯蓄がなくて身動きがとれないということもよく聞きます。これだけ生き方の価値観が多様化しているわけですから、女性がもっと経済力を身につければ、それだけ選択肢も、実現できることも増え、しなやかな人生が実現するのではないかと思っています。

女性たち一人ひとりがそれぞれ得意なところを活かしながら、社会を担っていける世の中であってほしい

ー大学や会社を通して「女性」であることを実感し、さまざまな女性たちの声を聞いてきたうえで、女性が集まって仕事をするということに、どのような可能性を見出していますか?

大竹:お互いの気持ちに共感しようと努力できたり、形式や制度という意味での「女性の働きやすさ」ではない柔軟なやり方を探れたりすることが大きいですね。表向きの女性への配慮と本当の配慮は違うと思いますし、そういう歪みが世の中にはまだたくさん残っているように思います。そういう意味では、女子大という「女性の集団」に身を置く経験がなかったら、女性だけの組織を作るという発想にはならなかったと思いますし、ロールモデルを生み出して社会を変えたいという課題感も出てこなかっただろうと感じます。 

ーロールモデルを生み出したいというのは、大竹さん自身にロールモデルがいなかったからなのでしょうか?

大竹:ロールモデルがいないというよりも、男性社会のなかで活躍する、既存の女性のロールモデルにすごく偏りがあると感じていたんです。「強い女性」として立ち回れないと、この社会では男性と同じ立場にはいけないんだと思っている女性は今でも多いのではないかと思います。私が感じているのは、「男性によって作られてきた社会のなかで、男性と同等の働き方を目指すのではなく、それぞれの得意・不得意を補い合うような社会にできたらもっと心地よいのではないか」、そして「一人ひとりが価値観やライフスタイルにあった働き方を実現できたらもっともっと多くの女性たちの埋もれた才能を社会で花開かせることができるのではないか」ということ。肩肘張らない、自然体の女性の社会進出をそっと促せたらと思っています。 

ー女性のキャリアが分断されてしまうという社会の課題が、未だにあると思います。大竹さんが起業後、15年以上にわたって会社を続けてこられた理由はなんだと思いますか?

大竹:振り返ってみれば、正社員に派遣社員、フリーランスと、いろいろな働き方を経験してきました。そして想定外の起業に行き着いたわけですが、結果として起業という選択肢は、女性が仕事をする上でとてもフィットしやすい形態だと感じています。私自身、起業直後は子どもたちが小さかったのでスタッフのみんなにたくさん助けてもらいましたし、逆に柔軟に対応してあげることもできます。また、女性が仕事に必要な社会的信用を得るという意味合いでも「法人格」はとてもありがたい存在です。「社長」だからバリバリ働かなくてはいけないかというとそんなこともありません。もちろん会社を維持していくには利益を出すことが大前提ですが、それさえできていれば、自分や、スタッフのみんなに合わせてな心地よい塩梅でやればいいんだということも起業して知ることができました。実は去年、社会学を勉強したいと思って大学に学士入学で再入学したんですよ。卒業できたらいずれアメリカの大学院でさらに学びを深めたいなと考えています。逆にそんな話を相談されたら全力で応援したい。そうしたことができるのも、起業という形態だからこそですし、それが私には合っているんだと思っています。 

ー大竹さんの好奇心を自制しないという姿に勇気づけられる人も多いと思います。これから東京女子大学に入りたいという方々にメッセージをお願いします。

大竹:近年、「男性と女性」という性別二元性自体にさまざまな議論がなされています。こうした状況は、なぜ自分は「女子大」で学びたいのかということを改めて考えるとてもよいきっかけを与えてくれているように思います。身体的性が女性として生まれてきたとしても、自分の意志選択ではなく偶然なわけですが、女性として生きていくことが世のなかでどのような意味を持つのか、社会に出る前に真剣に向き合う機会があることは、人生においてとても価値があることだと思います。少なくとも私は東京女子大学で女性として社会に出て生きるということについて深く考える機会をいただき、そのことが現在にしっかりとつながっていると実感しています。人生100年時代と言われますが、中でも特に女性は長寿です。ぜひ4年間、東京女子大学で興味ある分野での学問を深めるとともに、人生100年時代を心地よく生きるための自分らしいあり方を見つめてほしいと思います。 
大竹のり子
ファイナンシャルプランナー 株式会社エフピーウーマン代表取締役 ファイナンシャルアカデミー取締役(取材時)

金融専門書籍・雑誌の編集者を経て2001年にファイナンシャル・プランナーとして独立。正しいお金の知識を伝えることで多くの女性の人生を支援したいという想いから、2005年4月に「女性のためのお金の総合クリニック」として株式会社エフピーウーマンを設立。現在、経営の傍ら、講演、雑誌、テレビなど多くのメディア出演を通じ、女性が正しいお金の知識を学ぶことの大切さを伝えている。『なぜかお金に困らない女性の習慣』(大和書房)、『美しく生きる女(ひと)のためのお金の作法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書は40冊以上に及ぶ。休日にはミュージカル鑑賞やジャズピアノを楽しむ音楽好き。

スタッフ

Interviewer・Writer:
飯嶋藍子
Photo:
吉田周平
Editor:
野村由芽