申込不要受付中締切間近終了
東京女子大学

ストーリー

[卒業生]

変化する時代で、挑戦し続けるために。東京女子大学に息づく知性と信念

東京女子大学学長 森本 あんり / 1993年文理学部哲学科卒業 横山 由利亜 / 2007年文理学部社会学科(経済学・ 国際関係論コース)卒業 山村 順子

人のために、世界のために、今私たちにできることは何か。
国際支援活動を通して「答えのない問い」に挑み続ける2人の卒業生と学長が
東京女子大学で培われた志や資質について語り合いました。

国際支援活動で人としての尊厳に触れ、人としての生き方を知る

山村 現在は開発コンサルタント会社に所属し、パレスチナの難民キャンプへの支援活動を続けています。また、ボランティアですが日本にいる難民を含むアフガニスタン人の支援も行っています。仕事の傍ら、パレスチナに5年駐在し、ガザの支援と東エルサレムの支援をしていた関係で、講演活動なども行っています。エルサレムに住んでいた頃は、旧市街まで徒歩15分ほどで、イエスのお墓がある聖墳墓教会などにもよく散歩に行きました。世界中から巡礼者が来ている街に住みながらの活動でした。

横山 私は文理学部哲学科を卒業してYMCA(キリスト教青年会)に入職しました。就活で行き詰まっていた時に、恩師に勧められたのがきっかけです。私自身、キリスト教に関連する仕事がしたいという思いがありこの道に進みました。子どもからお年寄りまで、人に関わる仕事はあらゆることを経験しましたが、ライフワークとしては災害、紛争、戦争、貧困などに関わる人道支援です。

森本学長 お二人の活動には圧倒されるばかりです。特に今話題になっているガザやウクライナといった地域での活動にはとても注目しています。支援活動に関わるきっかけは何だったのですか?

山村 私はもともとイギリスの大学院で開発学と紛争の勉強をしていましたが、即戦力を身につけたくて、はじめは民間企業に就職しました。しかし、やはり「人」を中心とする国際協力に関わりたいと考えるようになったんです。そんな時に、知人に誘われて参加したパレスチナのスタディツアーで、現地の人々の生き方に魅了されました。パレスチナの人々は、自分たちは土地を取られたり、人を殺されたりして、日々それに対する抵抗運動を行っているにも関わらず、私たちに優しく、ずっと冗談を言って笑わせてくるんですよ。その地で起きていることと、そこにいる人々の魅力とのギャップが大きく、「もっと知りたい、この人たちと何かしたい」と強く思いました。

森本学長 国際支援をしたくて始めたというより、現地で出会った人の魅力がきっかけだったんですね。在学中から国際支援に関心があったのですか?

山村 もともとは欧米に憧れがありましたが、高校2年生の頃に9.11の事件が起きました。そこで、欧米にばかり意識を向けていて良いのかと感じ、途上国に目を向け始めたのがきっかけです。いろいろな世界を見てみたいと、大学では開発経済のゼミに入ったり、バングラデシュのスタディツアーに参加したりしました。その際にたまたま現地に駐在されていた東京女子大学の先輩と出会い、その姿に惹かれたんです。現地の人々とも対等に渡り合い、現地語でやり取りしている姿がかっこよくて、私もこんな仕事がしたいと初めて思いました。

横山 とても共感できます。人道支援と聞くと、悲惨で暗くて、「私なんかが行っても役に立つだろうか」「専門性があるわけでも、すぐ助けられるリソースがあるわけでもないのに」などと考えてしまいますが、実は助けられたり、受け入れられたりするのは私たちの方です。本当に大変な現場にいる人たちの受容力の大きさや人間力には驚かされます。ネガティブ・ケイパビリティ(すぐに変えられない現実に耐え、その中で希望を見出して今日明日を生きていく力)と言うのですが、それが笑いや歓迎なんです。それは道徳的なものではなく、互いの間で大切にする、人としての尊厳のようなものなんですよね。

山村 人としての生き方を彼らに教わっていると思っています。ヨルダンにいるシリア難民の支援などもしていますが、そこでは両親を殺され子どもだけで逃げてきたシリア難民の人たちが、私に「ご飯を作って振る舞いたい」と言うのです。そのもてなしを受けることも、彼らムスリムにとっては大きな意味があるんですよね。尊厳を奪われた状況下で、美味しく食べる、歓迎を受けてあげることはとても大事なことだと知りました。

横山 彼らにとって、もてなせないこともストレスなんです。食事をともにすることから始まる関係性もありますよね。それで尊厳が保たれるという部分もあるんです。

森本学長 人間は一方的にもらうだけでは出来上がりませんし、自分が人にしてあげられることがあるという事実で尊厳が保たれるのはとても理解できます。

外の世界を知り、譲れない信念とキリストの心持ちを持てる人になってほしい。森本 あんり,MORIMOTO Anri

知性をどう使うのか。「いと小さき者」に寄り添うキリスト教の教え

横山 大学の入学式で、当時の京極純一学長が仰った「大学時代に自分の人生の座標軸となるものを得てほしい」「それがキリスト教であればとてもうれしいが、キリスト教でなくても構わない」という言葉に、雷が落ちたというくらい「かっこいい」と思ったんです。それまでは、学校はすべての道筋を与えてくれる場所でしたが、学長という立場の人が私の生き方にそっと手を添えるような言葉をくれたことが衝撃でした。大人の教養や信念に初めて触れた、カルチャーショックの瞬間でした。本来人間が持つ知性や教養とは、決して押し付けで覚えるものではないと大学初日に教わりました。当時はキリスト教の授業はあまり理解できなかったのですが、正解が分からない問題を探究し続ける先生の姿に、これこそが学問であり知的大冒険であると感銘を受けました。正しい答えばかりを求められる現代で、やはり答えよりも「問いを持つこと」が大事だと実感しています。「なぜ人は生きるのか」「なぜ行動するのか」。問いを持って生きるということが、東京女子大学で教わった根本だと思っています。

山村 まさにその通りで、卒業後に実感することが多かったです。エルサレムでの活動では、キリスト教を含む、一神教の知識がなければ現地の人を深く理解できなかったと思います。

森本学長 大学としては、必ずしもキリスト教を信じてほしいというわけではなく、キリストの心持ちを持ってほしいと思っています。初代学長の新渡戸稲造先生は聖書の言葉を用いて「いと小さき者の心を知る人になってもらいたい」と仰っています。お二人のように、戦争や災害で小さくされてしまった人のことを一番に考えて働くということは、この大学でしみ込んだキリストの心持ちの一つだと思いますよ。

山村 個人を尊重する校風も、東京女子大学ならではだったと感じています。大学ではさまざまなジャンルの授業を受けましたが、学びが人を救うツールになるということを教えてくれたのが大きかったです。ただ学ぶのではなく、「なぜ学ぶのか」を伝えようとしてくれる先生が多かった印象ですね。

横山 大学で得た知性を卒業後にどう用いるのかはとても重要ですよね。国際支援的な視点でいうと、人々を解放する側に使うのか、分断させる側に使うのか。何のための知識かということを意識しながら教わりました。

森本学長 昨今の国際情勢を見ると、ガザやウクライナの戦争は終わる気配がありません。そんな平和の見通しが見えない中でお二人が活動を続ける力はどこからきているかというと、揺るがない信念を持っているからだと感じています。新渡戸先生の言葉でいうと、「人はどこか動じないところ、譲れぬという断固とした信念がないと仕事はできない」と。決して大きくない希望の中で、人間として行動せねばという気持ちを持つことは、若いうちに志を植え付けられた人だけができることでしょう。ですから学生たちにはお二人のように、大学生のうちに動じない信念を持ってほしいと思っています。

横山 現地を知って気付いたことは、まさに世界を構造で見ることが、大学で学ぶ知性なのだということです。目の前の「いと小さき者」に寄り添うという蟻の目と、俯瞰で見る鳥の目。そのうえで、なぜそれが起きているのかという構造を考えることが重要なんです。例えばパレスチナの検問では、ムスリムは止められる一方、クリスチャンは若干優先されます。この小さな行為でムスリムがクリスチャンを憎むように仕組まれているんです。仕組まれた分断は意外と身近なところにもあります。ジェンダー問題でいうと、産休で休む女性を女性だけでフォローするように言われる。すると女性同士で不満が生まれて、分断させられてしまうんです。小さな分断にどれだけ気付いて踏みとどまり、克服していくかが、平和の鍵です。平和とは実は、分断されないように戦うというアグレッシブなものなんですよ。

山村 平和は、不断の努力で勝ち取っていくものなんですよね。

森本学長 ディバイド・アンド・コンカーと言って、支配者のテクニックですね。連帯して強くならないように、分断して小さくして支配する統治の例です。そういった構造を知るためには、リベラルアーツの学びが生きてきますよね。

山村 在学中はリベラルアーツの良さを理解しないまま、さまざまな専門科目を受講しましたが、社会に出てその良さに徐々に気が付き始めました。社会では、自分の専門では対応できない学際的なことの方が多いです。平和構築のプロジェクトに関わっていますが、都市計画やエンジニアリング、防災など、実に多様な観点が必要になります。大学でさまざまな人と協力しながら、多角的な視点で物事に取り組むことが大切だと学べたことが、今力を発揮していると感じています。

「問いを持って生きる」ということが、 東京女子大学で 教わった根本だと思っています。横山 由利亜,YOKOYAMA Yuria

さまざまな気づきをくれる 女子大だからこその学び

横山 私が学生の頃は、女性学研究所ができるなど、東京女子大学はジェンダー分野でのトップランナーといったイメージがありました。実際通っていて、女性の教員も多く、女性がリーダーシップを取る空気感が好きでしたね。

森本学長 女性教職員は現在全体の40%ほどを占めており、今後は50%にまで増やしたいと思っています。

山村 それが当たり前だと思っていたので、社会に出ると違うことにギャップを感じて驚いたのを覚えています。就職活動の時も、女性だからという理由で弾かれることが普通にあった時代なので、自分の選択肢を狭めてしまう女性をよく目にしました。社会で女性の置かれている立場はこれほど厳しかったのかと。

森本学長 だからこそ大学の4年間で、女性が活躍できる現実があるということを知ってもらいたいです。女性が自由にリーダーシップを発揮できる環境を体験していることは、今後の人生においても重要ですよね。

横山 今の学生たちは男女差別を受けているという自覚はほとんどないでしょう。ポリティカル・コレクトネス的な考えが一般的になり、表面的で分かりやすい差別は無くなってきていますが、一方で本質的な問題を深く考える機会がなくなっているとも言えます。自分自身が差別を受けている、あるいは差別しているかもしれないと気付く場面がないんですよね。そういう機会を大学生の間に体験できるといいなと思います。

山村 外の世界を知ると、自分自身の気づきにもつながります。開発途上国で現地の問題に取り組む中で、自国の問題にも気付ける瞬間はたくさんありました。例えばパレスチナは家父長制が根強く、日本と似た部分がたくさんあります。現地の女性の社会的自立を支援する活動の中で、日本での女性の立場についても改めて考えさせられました。

横山 私は今日本に来ているウクライナの人々の日常生活支援をしているのですが、気付かされるのはいつも私たち側です。日本社会はやり直しを迫られた人にとって生きやすい社会になっているのか、という問いに尽きます。地震などの災害でもそうですが、いるべき場所やあるべき人間関係からある日突然切り離されてしまった人が、ゼロからキャリアや夢をどう再構築するのか。日本社会はまだまだ優しくないなと痛感しています。

森本学長 ワークキャンプやスタディツアーに参加して外の世界を知ることで、自分の置かれた場所も見えてきますよね。今の学生にもそういう機会に触れて、自分自身を広げてほしいとつくづく思います。

学びが人を救うツールになる。 「なぜ学ぶのか」を教えてれた先生方に感謝しています。山村 順子,YAMAMURA Yoriko

行動する力を後押しする「犠牲と奉仕」の教え

横山 視点を広く持って社会を見ること、そのために行動を起こすには、自分を犠牲にしなければいけないと思うかもしれませんが、私にとってそれは好奇心に近いんです。

森本学長 東女の校章にもなっている、Service and Sacrifice(犠牲と奉仕)という言葉があります。これは私たちが払う犠牲と捉えられがちですがそうではありません。キリストが払った犠牲の上に我々が生きている、「だから神様ありがとう、私たちも奉仕します」という意味なんですよ。キリストの犠牲と愛があって、この大学ができているからこそ、今度は私たちが奉仕する番だという考え方です。

横山 犠牲とは自分の楽しみを押し殺して、という意味ではないんですね。私の命は私だけのものではなく、誰かのために用いることで、皆が生かされるということ。自分自身が少し違和感を持っていることにアクションをすると、自分も他者も生きやすくなるということだと解釈しています。

山村 支援の仕事でもそれは実感します。自分のためだけの命だと思っていてはできないことがたくさんあり、そういう不思議な力に支えられて「何かしなきゃ」と思うようになるので、これはキリストの心持ちだったんですね。

揺るがない信念を持って時代に挑戦し続ける

森本学長 「犠牲と奉仕」だからお国のために尽くすのではなく、世の中に流されない信念を持って、自分と関係のない人たちのためにも尽くせる。そういった挑戦の精神が卒業生たちにも伝わっていることが本当にうれしいです。

横山 恐れ多いです。「やらない理由よりもやれる理由を考えたい。やってみましょうと言える自分でいたい」とは常々思っていますし、その姿勢はここで培われたのだと胸を張って言えます。

森本学長 東京女子大学は創立時から、戦時中・戦後もずっと時代に対して挑戦してきました。戦時中、軍部からキャンパスを軍事転用するように言われた時も抵抗して大学を守る精神を持っていました。この挑戦し続けてきた歴史は、世間の潮流に流されず、自分の信念を持って活動しているお二人のような卒業生が、何より証明してくれていると思います。今後の東京女子大学の挑戦にもぜひ期待してください。
森本 あんり
東京女子大学 学長
横山 由利亜

1993年東京女子大学文理学部哲学科卒業。同年、公益財団法人日本YMCA同盟に就職。以来、国内外の人道支援活動に携わる。現在、ウクライナ避難者支援プロジェクトの責任者を務める。

山村 順子

2007年東京女子大学文理学部社会学科(経済学・国際関係論コース)卒業。2016年に日本のNGO、JVC(日本国際ボランティアセンター)にパレスチナ事業の駐在員として入職。現地での支援活動に携わり、現在は開発コンサルタントとして支援を継続中。