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東京女子大学

ストーリー

[卒業生]

研究者としての原点は人生を揺るがす学びと出合った大学時代にある

1999年 文理学部 社会学科(経済学・国際関係論コース)(当時) 卒業 埼玉大学 人文社会科学研究科 教授

目から鱗が落ちた、実生活に根差した女性学の学び

入学から間もなく、基礎演習の授業で矢澤澄子先生(1993年度~2010年度本学在籍)のゼミに所属することになった。そこで出合ったのが「女性学」。当時は、この学問が私の人生を決定づけることになるとは予想していなかった。
授業では、世界の女性たちを取り巻く環境について、各国の政治・経済・社会・教育・家庭などの分野別の視点で分析し、理解を深めていく。その中で私は、「男性と女性が平等に扱われていない」という現実を知った。

入学のわずかひと月前まで共学校で過ごしていた私にとって、男子と女子は平等が当然だった。しかし大学に入学した途端、社会が「かわいらしい女子大生」という振る舞いを求めるようになった。「女子が男子を持ち上げる」という状況にも何度も立ち会った。日常生活の中で何となく覚えていた違和感。矢澤先生の授業では、その正体がジェンダー理論によって論理的に読み解かれていく。正に「目から鱗が落ちる」ような衝撃だった。社会と学問が深く結びついていることを実感でき、答えがすぐには見つからない問題を考える面白さも知った。みるみるうちに、女性学研究の世界へとのめり込んでいった。

社会の現実に直面し、研究者へ転身。
次の目標は「自分の原体験を伝えること」

大学での4年間は女性労働研究に取り組み続け、卒業後は民間企業へ就職。女性を取り巻く厳しい現状は学んでいたけれど、「能力さえあれば、女性でも活躍できる」と思っていた。でも、職場で女性が置かれている実態に直面した。なぜ男女で与えられる仕事が違うのか。男性社員と同様に職場に貢献できていたはずなのに、どうして女性だけが昇進できないのか。なぜそのような判断が認められ、適用されているのか。まったく理解できなかった。

「この理不尽な現状を、自分の言葉できちんと説明できるようになりたい」。3年半勤めた後、大学院に進学。元々は、研究することで自分が納得できれば良いと思っていた。しかし、学びを深めていくうちに、強い思いが湧きあがってきた。「女性労働の知見を、もっと深めたい」。

大学院を修了した後は、研究者として埼玉大学に所属している。もちろん、研究のテーマは現在も女性労働についてだ。私が企業に勤めていた頃から時代は変わり、女性の労働環境も大きく変化した。それでもまだ、女性が活躍できる業種や職種には制限も多い。そこで、現在着手しているのが、男性正社員が中心の雇用管理体系での女性の位置づけに関する考察だ。自分の研究で、社会の構造を解き明かし、問題解決につながる何かを見つけたい。18歳で出合ったこの学問に、これからもわくわくした気持ちで向き合っていくつもりだ。もちろん、教育者としても、あのときの気持ちは絶対に忘れてはいけないと思っている。学生たちには、当時の私のように「目から鱗が落ちる」体験をしてほしい。彼らの人生を変えるような学問との出合いの場をつくることこそが、今の私にできることだから。

プロフィール

千葉県出身。
卒業後は民間企業に入社。その後、お茶の水女子大学大学院修士課程、東京大学大学院博士後期課程を経て、2009年から埼玉大学に着任。2020年より現職。