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東京女子大学

ストーリー

[教職員]

ミクロな世界の理論を追究し 宇宙誕生の謎を解き明かす

東京女子大学 現代教養学部 数理科学科 情報理学専攻 教授 尾田 欣也(取材当時)

物質を細かく分解していくと、分子、原子、原子核などの細かい(ミクロな)構造になることは、皆さんも聞いたことがあると思います。ミクロな極限を突き詰めた素粒子論※1の世界は、半世紀以上前に作られた標準模型が十年前にようやく確証され完成した、というような息の長い分野です。ミクロな世界でも成立する物理法則の根幹が量子論です。量子論は半導体、コンピュータを通じて、携帯電話、インターネットなど、現代産業を支える基本的な理論になっています。

現代物理学は、この量子論と、アインシュタインが提唱した相対論の言葉で書かれています。量子論がミクロの世界の仕組みを明らかにしているのに対し、相対論、特に一般相対性理論は、時間と空間、重力に関する理論です。量子論と矛盾のない重力の説明は未だにできていないため、一般相対性理論と融合した重力の量子論を確立しようという試みが過去一世紀以上にわたって行われてきましたが、未だ難攻不落です。

その一方で、初期宇宙で起きたインフレーション※2について、実際の観測に即した検証が過去20年で劇的に進歩しました。今後の20年でも多くの実験が計画されており、今まで以上に進歩すると期待されています。これを通じて量子重力に迫れないか、というのが私の研究テーマの1つです。宇宙観測のスペシャリストがもたらすデータの解析結果から世界中の物理学者がさまざまな仮説について議論・検証し、より良い示唆や新たな仮説を提唱しています。量子論と整合的に説明できていない重力については「重力子」という粒子の存在が考えられていますが、現在それは未発見です。しかし、ここ30年の間に宇宙の観測は劇的に進化しているため、これから10年、20年でインフレーション中に作られた重力子の痕跡が見つかるのではないかと考えています。こうした謎に迫り、人類を長い間悩ませてきた「量子重力理論」の確立に貢献するのが目標です。

物理学は物事の成り立ちの根本に迫る学問です。物質とは何か。時空とは何か。そうした哲学的な問いが数式的に記述され、それがひいては産業という実利にも生かされていく。そのような学問は物理しかありません。さらに、ある理論が発見されればそこから新たな研究領域が生まれて進化し続ける、無限の広がりがあるのです。「根本を知りたい」という好奇心多き学生が、その扉を開いてくれることを期待しています。
研究キーワード 標準模型 / インフレーション / ヒッグス / 重力 / 波束形式

尾田 欣也
東京女子大学 現代教養学部 数理科学科 情報理学専攻 教授(取材当時)

大阪大学にて博士(理学)取得。大阪大学理学研究科助教、京都大学理学研究科助教、大阪大学理学研究科准教授などを経て現職。専門は素粒子現象論、素粒子的宇宙論。現在は波束形式の場の量子論、量子重力理論などにも力を入れる。