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東京女子大学

ストーリー

[教職員]

「知のかけはし科目」が拓く、学びの新たな可能性。 東京女子大学が目指すリベラルアーツとは

現代教養学部社会コミュニケーション学科教授 有馬 明恵 / 現代教養学部国際社会学科教授 家永 真幸

異分野の交わりが、学びの化学反応を起こす。
「知のかけはし科目」でタッグを組み、学生たちに新たな学びを届ける2人の教員が
東京女子大学で繰り広げられるリベラルアーツの学びについて語り合いました。

「かわいい」がつなぐ中国政治史と社会心理学

家永:私は中国研究者で、近現代の政治史を専門にしています。特に中華民国時代から中華人民共和国になるまでの政治の歴史を研究し、台湾をめぐる問題や国際関係について、政治的な視点で読み解いています。

有馬:私は社会心理学を専門として、メディアによるアイデンティティへの影響やジェンダー問題などを中心に研究しています。最近はSNS上でのフェミニズム運動やジェンダー表現についても注目しています。

家永:今回、「知のかけはし科目」で有馬先生と組むことになり、テーマに掲げたのは「かわいい」という言葉です。私自身はもともとこの言葉を研究していたわけではありませんが、大学院時代に、中国を象徴する動物・ジャイアントパンダの「かわいさ」の変遷について調べていたことがあります。今でこそ多くの人がパンダを「かわいいもの」としていますが、中国の古典を調べてもそのような記述はありません。パンダが「かわいい」とされるようになった背景には何があるのか、近代国家の建設やナショナリズムと関連付けて研究していました。有馬先生も社会における言葉の使われ方や作用について研究され、ナショナリズムに関連する研究もされていると聞き、ともにテーマを深めていけるのではと感じました。

有馬:授業計画を考える際、家永先生の「ジャイアントパンダをかわいいと認識し、国家シンボルとして外交する」という政治史研究がとても興味深いと思ったんです。「かわいい」というキーワードを軸にすれば、私の専門範囲ともつながり、多様な切り口で紐解いていけるのではと直感しました。家永先生と組みたいという先生方は他にもたくさんいましたが、これは面白い授業ができると思い、具体的な授業プランを提示してご提案しました。

家永:授業計画も楽しく進められたと思います。冬期休暇中に近所のコーヒーショップに集まり、「かわいい」をめぐってさまざまなネタを出し合いましたね。「知のかけはし科目」は、一人では成し得ない多面的なアプローチが可能な点が特長です。学生たちがより学びを広げやすい構成にすべく、検討を重ねました。

“2人の教員”から一つのテーマを学ぶ魅力

家永:異なる専門性を持つ先生と連携することは、教員である自分自身も新しい視点を得られるという魅力がありました。講義の冒頭では、それぞれの専門分野について基礎的な解説をします。そこで有馬先生から、私自身も知らなかった分野の話を聞けて、役得でしたね。他分野の基礎知識を学ぶことは、自分の専門研究を進める上で直接役立つものではないかもしれません。しかし、思考の一手段として持っておくと、自分の引き出しを増やすことができると改めて感じました。

有馬:まったく同感です。私たち教員は皆、「学問とは何か」「学問領域間はどうつながっているのか」というところまで考えながら日々研究をしています。しかし、それを伝える機会が通常の授業ではなかなかありませんでした。ですからこの授業では私の持てるものを総動員して、言語、コミュニケーション学、知覚心理学、対人心理学、国際関係、歴史……とあらゆる学問に触れ、「かわいい」を俯瞰する学びを展開しています。研究へのアプローチは本当に多様だということを伝える機会になったことを非常にうれしく感じています。

家永:私たちの専門分野ではこう考えるが、他の分野からはまた異なる見え方があると、学生が気付くきっかけになってくれるといいですよね。東京女子大学では創立当初からリベラルアーツを掲げ、学科・専攻を超えて科目を履修できる仕組みを整えていました。2024年からの教学改革を経て、学科間の垣根をより低くし、専門を超えた柔軟な学びが可能になっています。理想としては、学生が自分たちの力で専門外の学びに触れ、自身の学びを広げていくことですが、なかなか初めからできることではありません。そこで、実際に他分野の教員が学生の前で学びの混ざり合いを見せる授業が「知のかけはし科目」です。他分野の学びであっても、実は浅いところでつながっている、ということに気付く瞬間を体験してほしいです。

多様な学問に触れて「学ぶことの楽しさ」を実感してほしいです。有馬 明恵 ARIMA Akie

活発な意見交換を生み出す学生主体の授業設計

家永:実際に授業をしていると、学生が楽しんで授業を聞き、ディスカッションにも積極的に参加している様子が見られますよね。

有馬:キャッチーなテーマだからか、学生からの期待は初回から感じていました。初回は自分が思う「かわいい」について、グループディスカッションをしたのですが、みんなとても真剣に取り組んでくれましたね。一人ひとりの意識の高さを感じましたし、その上で他の人の意見も聞いて認め、異なる視点を学び取り、一つの課題としてやり遂げるところまでできていて驚きました。私たちの授業では、最初にグループで話し合うことによって、仮説を立て、講義を聞いて確かめるということを大切にしています。仮説を立てることは研究の第一歩です。これをきっかけに、自分の力で発展させたり、考えを深めたりする力を伸ばしてほしいと思っています。

家永:ディスカッションについては、教育学の手法を取り入れ、学生一人ひとりが主体的に関われる仕組みづくりを行いました。ジグソー法と言うのですが、例えば初めにA~Eまで5人ずつの班に分かれてディスカッションを行います。次に、各班内で1~5の番号を振り、A1、B1、C1……の人たちが集まって新たなグループを作ります。そこで自分の班で話し合ってきた内容を発表し合うというものです。この方法を取り入れると、全員が班の代表として、意見をまとめて発表する立場を経験することができます。また他の班で行われた議論についても一度に知ることができ、かなり幅広い意見を聞くことができるという利点があります。

有馬:このグループを組み替えて行うディスカッションにはとても効果を感じています。授業後のリアクションペーパーでも、「とても良い話が聞けた」「他の班の話を聞いて理解が深まった」という感想をよく目にします。

家永:自分自身の言葉でアウトプットするという経験は、物事を理解する上で非常に重要な工程だと思っています。頭の中では分かっている気になっていても、いざ口に出してみると説明できない、ということは意外に多いです。一人ひとりが責任を持って発言しなければならない状況なので、必然的に主体性が培われます。アウトプットを通して自分自身の理解度も図ることができるでしょう。

有馬:社会に出ると、必ず他人と協働する場面に出会います。その時に、このグループワークで身につけた力はきっと役立つと思います。就職活動におけるグループワークなどでも生かしてほしいですね。

家永:ディスカッション中は、LA(ラーニングアシスタント)として学部3年次の学生があちこち歩きまわってフォローをしてくれています。また、グループ分けは必ず他専攻・他学年の学生と組むように割り振りましたよね。

有馬:一つこだわったポイントです。他専攻の学生と密に交流する機会になればと思ってグループ分けしました。大学でたまたま出会った人が一生の友達になることは、意外と多いんですよね。「知のかけはし科目」で同じグループだった縁が、この先も続いてくれるといいなと思っています。

学びを多角的に広げていくための「気づき」を得てほしい

家永:全15回のうち、半分ほどの授業を終えて、学生たちにも「学びへの気づき」が生まれています。前半4回は、私が中国政治の歴史的観点から講義を行い、一つの価値観が成立し変化する過程を歴史的に読み解く手法を学びます。その後、有馬先生の講義回では、言葉の認知やコミュニケーションにおける作用についてディスカッションを交えながら掘り下げます。後半に社会心理学パートを持ってくることで、学生自身が理解しやすく、考えを深めやすくしました。話を広げるだけ広げ、「いろんな見方があるね」というレベルで雲散霧消させず、多角的に捉えながらも自分なりの答えに近づけるようになったのではと思っています。

有馬:講義の着地点については家永先生とも議論を重ね、最も苦心した所です。「かわいい」というテーマを通して、一つの事象が社会にどう影響するかという視点で結論付けるところまで持っていくことができるように授業を構成しました。

家永:回を追うごとに、学問分野のつながりに気付いた学生から「この内容はここにつながるんですね」と鋭い感想が寄せられるようになり、成長を感じています。

有馬:授業外の話題とも関連付けて考えられるようになってきていますね。私の講義の後半では「かわいい」の持つ否定的な作用についても議論しました。すると、学生たちは「失敗をかわいいと言われて傷ついた経験がある」などと自身の経験をもとに新たな視点を見出していました。過去の経験からの気づきも重要な視点だと思います。言葉には、肯定的・否定的双方の側面があります。それにはどんな社会状況が影響しているのか、どんな心の動きが作用しているのか、歴史的な背景は?などと、さまざまな観点で疑問を持つことが大切なのです。

家永:さまざまな考え方に触れると、結局はケースバイケースだという結論に帰着しがちです。しかしそこで話を終わらせず、ケースごとに検証ができれば、一つの研究になります。授業の中で感じた疑問や興味がきっかけで、立派な卒業論文につながるかもしれません。ゆくゆくは、今回の「かわいい」というテーマ以外でも、多角的に学びを広げられるようになってほしいですね。ここでの気づきが、新たな研究や探究の種となることを期待しています。

立派な研究につながる「学びの種」がここから見つかるかもしれません。家永 真幸 IENAGA Masaki

視野を広げた先にある学びの面白さ、奥深さを感じて

家永:この授業を通して、「学問と学問はこういうふうに重なっているんだ」「複数の学問をひとまとめに考えるにはこうすればいいのか」といった視点を一つ身につけてもらえれば本望です。そうすると、2・3年次と学びを進めるにあたって、自分の知りたいことに必要な科目を他分野の学びから選び取ることができるようになるのではと思います。

有馬:やはり、リベラルアーツの入門としてはとても効果的だと思います。学びの広がりはもちろんですが、そこから一歩進んで、学びの深さ・柔軟さにも面白さを見出してもらいたいですね。

家永:学びの深さもとても大切ですよね。ただ漫然と視野が広いだけでは意味がないんです。それぞれの方向にとても深いところまで研究している専門家がいるからこそ、視野を広げられるわけです。そういう意味では、「視野は広がったけど物足りないな、もっと学びたい」と学生が感じ、それぞれの興味をさらに深めてくれたらいいなと思います。

有馬:学生たちに「勉強って楽しい」と思ってほしいです。私自身も勉強の楽しさに目覚めたのは大学に入ってからです。入学当初は外国語学部に所属していましたが、専門的な授業を受けていくうちに社会心理学の面白さに気付き、大学院進学の際に専攻を切り替えました。さまざまな学びに触れ、それを深めていく中で「面白い」という感覚にたどり着くための一歩を提供できていたら、とてもうれしく思います。

今後も進化を続ける「知のかけはし科目」

有馬:「知のかけはし科目」の初年度として、教員たちも手探りながら学生たちにたくさんのものを掴んでほしいと準備を重ねてきました。私たち自身も学生からのコメントを通して気付かされることも多く、日々の授業に還元していきたいと考えています。何より、学生の皆さんがとても熱心に取り組んで、楽しく授業に参加している様子が感じられて喜ばしい限りです。

家永:私の研究分野に興味を持った人もいれば、有馬先生の研究分野に興味を持つ人もいるでしょう。異なる関心を持つ学生が一堂に会し、ディスカッションを重ねながら交流して、さまざまな論点から授業を受けることは学生にとっても新しい体験だったのではないかと思います。出演者が多数の音楽ライブを観に行き、目当てではなかったアーティストに魅了されることがありますよね。そのような感覚で、新たな関心を見つけるきっかけになってほしいと思っています。

有馬:次年度はゲストスピーカーを呼ぶなど、さらに充実した授業を届けられるよう構想中です。これから創り上げていくカリキュラムだからこそ、学生の意見も取り入れながら、東京女子大学一丸となって実のある学びを届けていきたいですね。
有馬 明恵
東京女子大学 現代教養学部 社会コミュニケーション学科教授
家永 真幸
東京女子大学 現代教養学部 国際社会学科教授