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東京女子大学

ストーリー

[卒業生]

被災の経験を胸にこれからも人の役に立つ仕事を重ねていく

2017年 現代教養学部 人文学科 哲学専攻(当時)卒業 東京都庁

震災で一変した日常。多感な私の心をとらえた哲学の力

東日本大震災が、私の故郷・福島県を襲ったのは、高校1年生の時だった。自宅にはしばらく戻れない。転校を余儀なくされ、親しい友人たちとも離ればなれになった。日常は一変し、そのストレスや不安から、生きることに多くの悩みを抱えるようになった。

そんな私に一筋の光を与えてくれたのが、倫理の授業で学んだ哲学だった。「幸せとは何か」「愛とは何か」—時代は違っても同じような悩みを抱えて生きた人々がいた。私も答えのない問いを考え抜き、自分なりの答えを持って生きていきたい。考える力を志向し、哲学を学ぼうと決めた。

大学では、哲学以外にも心理学など、興味のある学問は積極的に学んだ。大学の制度を利用したイギリスへの語学研修や、ボランティア活動にも励んだ。「キャリアデザインを描く」という授業は、女性としてどのように生きていくかを考えるきっかけになった。何気なく受講した授業で、思いがけず新たな知見が得られるリベラルアーツ教育の恩恵を、たっぷり受けることができたと思う。

卒業後の進路として行政職員を選んだのは、まぎれもなく被災の経験からだ。災害時に行政の果たす役割は非常に大きい。福島に戻るという選択肢もあったが、就職活動を進めるうちに、東京都が主体になって進めている復興支援があることを知った。災害時にいち早く支援できる体制と財政規模、そして影響力を持っている東京都は、都内で災害が起きた時だけでなく、他の自治体から支援要請を受けた時にも、多くの人の役に立つことができる。東京都だからこそできる支援に尽力したいと思った。

被災者からの感謝の声が大きなやりがいに

入庁して3年目の春。私は福島県へ派遣され、避難者支援業務に携わった。地震や津波に加え、原発事故という他に類を見ない災害を経験した福島県には、10年以上経った今もなお、震災以前の日常を取り戻せない避難者がいる。そんな中、印象的だったのは、避難者からの声だ。業務の中で直接「この支援事業のおかげで助かっています」といった声をいただくことがあった。私が携わっている業務が多くの人の助けになっている。とてもうれしく、大きなやりがいを感じた。

都庁の仕事は、携わる業務も幅広い。壁を感じることも、もちろんある。しかし、哲学で学んだ「考える力」は、困難に直面した時に粘り強く解決法を考え、それを乗り越える力を与えてくれた。物事の本質を考える哲学的思考は、いま自分が行っている業務がどういった形で都民に還元されるかを常に意識することにも役立ち、モチベーションの維持にもなっている。

私が行政職員になったのは、人の役に立つためだ。やりがいを一番感じるのも、人に感謝された時だ。人のために生きることが結果として自分のために生きることにつながり、自分の生きがい、自分の人生の幸せになっている。これからも、世の中を少しでも良くするために、人の役に立つ仕事に携わっていきたい。

プロフィール

福島県出身。卒業後、東京都庁へ入庁。主税局での課税徴収業務や契約関連業務、福島県での被災者支援業務を担当した。その後、財務局で人事を担当。職員の人材育成や採用、労務、昇任試験等に携わっている。