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東京女子大学

ストーリー

[在学生]

表現への欲求が切り拓く私の未来

人文学科歴史文化専攻4年<取材時の学年>神奈川県・私立横浜創英高等学校 出身

世界の観方が変わったジェンダー学との出会い

2年次に履修した「国際社会と女性の人権」という授業は衝撃的だった。「女性専用車両」や「女子大学」の必要性、男性が女性の分の食事代も支払うことの意味など、今まで意識しなかった日常生活の中のジェンダーについて、初めて意識させられたからだ。

思い返せば、私が東京女子大学を選んだのは、「女子大」だったからだ。高校生の頃、男子の視線を気にして身だしなみに気をつかう女子がいることや、行事のリーダーを務めるのは男子生徒が多いことに、おぼろげな違和感を覚えていた。自分の中にも「男性の視線」を気にする自分がいる。そのような環境の中では、私はいつまでも内側にこもったままかもしれない。内気で消極的な自分を変え、自由な表現と主体性を身に付けたいと思い、東京女子大学を選んだ。

ジェンダーに関する授業を受けて、それまでぼんやりと感じていた違和感が意識化されたと同時に、自分の中にも抗いがたいジェンダー規範があることに気づくようになった。授業では、東ティモールやルワンダにおける戦時の性暴力や、日本と世界の女性差別問題にも触れた。この世界は、男性も女性もそれぞれのジェンダー規範にとらわれて生きている。特に女性性は、なんと残酷に搾取され続けてきたことだろう。これまで自分が「ちょっと嫌だけどそういうものだ」と飲み込んできたものは、世界中の女性が抱える問題でもあったのだ。

遊郭と空襲をテーマに
現代につながる性の問題を解き明かす

ジェンダーへの関心に火を付けられた私は、卒業論文のテーマを「吉原遊郭の空襲被害と復興」とし、吉原遊郭と東京大空襲を取り上げた。2年次に履修した日本とドイツの空襲に関する授業を機に空襲被害にも興味をもち、遊郭という性産業の町における空襲被害を学べば、ジェンダーも空襲被害も同時に研究できると考えたからだ。

江戸時代および赤線の時期に関してはさまざまな先行研究があるものの、東京大空襲での消失から赤線営業開始の期間についての研究はとても少ない。吉原遊郭は、東京大空襲で最も悲惨な被害を受けた街の一つであるにもかかわらず、遊女や芸者など郭の中で生きてきた人々の空襲体験は、これまでほとんど注目されてこなかったのだ。

卒業論文ではこれらを明らかにすると同時に、江戸時代は売春だけではなく文化の中心地でもあった吉原が、なぜ現代では売春産業のみが残っているのか、空襲からの復興の過程で何が失われ、どう変容したのかを明らかにしようとしている。それはきっと、私たち日本人が性産業をどうとらえてきたのか、性を取り巻く現代社会の在り様を示唆することにもつながると思うからだ。

答えのない世界を自由に生きるために

東京女子大学には、全学共通カリキュラムを通してさまざまな分野を知り、学べる環境がある。「単位のため」「試験のため」と授業時間を単に消費するのではなく、人生や考え方、教養を豊かにし、自分の意見を「生み出して」いく、創造的な学びがある。

高校時代まで、周囲の目を気にして、自分の意見を発言してこなかった私も、少人数教育と、自主性を重んじて他者を尊重する環境のおかげで、積極性が身に付いた。ゼミや授業では発言を求められる機会が多く、最初は戸惑ったものの、いつの間にか自分の考えをしっかり言語化し、人に伝えることができるようになった。多角的な視点で物事をとらえ、自分の考えを持つことができるようになったのは、生きる自由さが増したようでうれしい。

学業と並行して、俳優業にも取り組んでいる。個性を尊重するこの大学が、積極性と自己表現への欲求を後押ししてくれたのだ。演劇や音楽に触れるというのは、答えのない答えを探すことでもある。台本通りに話せばよいのではなく、相手の話し方や表情、感情の動きに合わせ、自分の感情が動きとなって表れ、台本そのもののとらえ方も変わる。制約の多い日常生活のなかで、考えや感情を表現できる歓びは何物にも代えがたく、私自身が「わたし」としてこの世界を生きるために、芝居はどうしても必要なものになった。

卒業後は、俳優としてさらなる高みを目指していくつもりだ。今はまだ自分自身の幸せのために芝居をしているが、いつか私の幸せが誰かの幸せにつながる日が来るように、これからも技術を磨いていきたい。そしてできることなら、さまざまな形で搾取されている女性たちが少しでも生きやすい世の中をつくることに、貢献していきたいと思っている。