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尾田欣也教授(情報数理科学科)と博士後期課程の小川直哉氏が量子測定における根本的な問いに明確な答えを示す研究成果を発表

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尾田欣也教授(情報数理科学科)と博士後期課程の小川直哉氏(研究当時名古屋大学大学院に在籍しており、2025年4月より東京女子大学大学院博士後期課程に進学)が、量子測定における根本的な問いに明確な答えを示す研究成果を発表しました。
本研究は量子力学の創始者の一人であるヴェルナー・ハイゼンベルクが提唱した「位置と運動量の同時測定不可能性」に対して、現実に構成された量子測定モデルでも理論的限界は超えられないことを世界で初めて確認し、量子力学における基本的な問いに新たな答えを示すものです。
研究論文はOxford University Pressが発行するProgress of Theoretical and Experimental Physics(PTEP)に掲載されています。

研究背景:ハイゼンベルクの出発点から、量子測定100年の旅
1925年、ハイゼンベルクが提唱した「行列力学」は、それまでの物理とは全く異なる「量子力学」という新しい世界の扉を開きました。その2年後の1927年、ハイゼンベルクは「不確定性関係」を定式化し、位置と運動量を同時に正確に測ることはできない、という原理的な限界を提示しました。

それから100年、量子測定の理解は大きく進歩します。2000年代には小澤正直氏が、測定による「誤差」とそれによって生じる「擾乱」の積に関する不等式を提案し、さらにそれを発展させて二つの物理量の誤差の積にも不等式が成り立つことを示しました。

これら一連の成果により「測定誤差」そのものを理論的に再定義しなおす流れが生まれました。その流れの中で、誤差と擾乱の不等式と、二つの誤差の不等式の両方を統一的に記述できる数理的枠組みとして登場したのが李・筒井不等式および李不等式です。尾田教授と小川氏は、こうした最新の研究や物理的な測定モデルに基づき、現実の実験において「位置と運動量の同時測定」に限界があることを証明しました。

研究成果:そして2025年————その「壁」は、現実でも超えられないと分かった
本研究では、量子力学の原点ともいえる「位置と運動量を同時に測ることはどこまで可能か」という問いに対して、最新の理論(李・筒井不等式および李不等式)が示す測定精度の限界が、現実的な測定モデルにおいても回避できないことを明らかにしました。具体的には、ガウス波束を用いて構成した連続自由度のPOVM(正値演算子値測度)による測定モデルにおいて、誤差の積(あるいは誤差と量子ゆらぎとの組み合わせ)に対して、理論が示す限界を超えることはできないことを、明示的な計算によって確認しました。こうした理論に基づく測定モデルで、二準位系よりも複雑な系を用いてこの種の限界が実際に示されたのは、世界で初めてのことです。

結び:100年前の問いに、100年後の答えを
本研究の成果は、量子力学の原点となる問いに対して新たに考案された測定の在り方を通して初めて明確な答えを示したものです。量子センサーや量子通信、量子コンピュータに加えて重力波観測や光時計のような最先端の技術においても「測定」が重視される現代の量子科学にとって、本研究は限界と可能性の両方を提示する新たな指標となります。