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東京女子大学

ストーリー

[教職員]

資料を俯瞰し歴史を理解する思考。それは遠い過去や場所を近づけ 現代社会の深い理解につながる

東京女子大学 現代教養学部 人文学科 歴史文化専攻 教授 柳原 伸洋(取材当時)

第一次世界大戦中に本格的な使用が始まった航空兵器は、戦争において空間的・時間的な「圧縮」をもたらしました。さらに航空兵器と同時期に導入された毒ガスは、攻撃対象を面から空間へと拡大させます。

第一次世界大戦時に空襲被害を受け、心理的にも大崩壊を経験したドイツでは、「将来また空襲されたらもっとひどい被害になる」という未来イメージが、雑誌や新聞広告なども用いられながら広まっていきます。それが「未来の戦争のために民間人も国防に参加せねばならない」という「民間防空組織」の成立につながり、ナチ体制下において全体主義体制への参加促進にも利用されます。

私の専門は、20世紀の空襲史。中でも、第一次世界大戦および第二次世界大戦のドイツに対する空襲やその後の影響について研究しています。加えて、空襲の記憶文化や日本の空襲研究も行っています。昭和の小説・ラジオ番組・映画の『君の名は』や、漫画・映画『この世界の片隅に』といった大衆文化の中の空襲イメージも研究対象です。

ドイツや日本には空襲について「私たちも被害者」という意識があります。被害の研究は両国の加害性を脱色するという懸念もあります。しかし、20世紀の空襲史を総合的に捉える研究は少ないのですが、空襲史を研究することは免罪ではなく、加害の中の被害や、被害の中の加害性に気づくことになるのです。また、戦争は社会に影響を与え続けており、社会の中には戦争の要素が常に存在しています。戦争の歴史理解を通じて、現代社会の在り様をより深く理解することにもつながるのです。

断片的な歴史資料をかき集めて俯瞰し、歴史学的思考によってそれらがつながったときの快感は何物にも代えがたいものです。大学での学びにおいても、もちろんその体験をすることは可能であり、遠い過去や遠い場所を、「今ここにいる」自分に近づけることができます。歴史学を基盤にした、人と人、思考と思考がつながる知の快感を味わってほしいと願っています。
研究キーワード 20世紀ドイツ史 / 空襲研究 / 製品文化史 / パブリックヒストリー / 歴史的思考力と高校・大学教育 / ポピュラーカルチャーと歴史
柳原 伸洋
東京女子大学 現代教養学部 人文学科 歴史文化専攻 教授(取材当時)

東京大学大学院にて修士(学術)取得。以後、在ドイツ日本大使館専門調査員などを経て、2018年4月より現職。2019年から2023年までは独・アウクスブルク大学文献学・歴史学部客員研究員も兼任。専門はドイツ・ヨーロッパ近現代史、戦争記憶の文化史、製品の文化史、空襲の歴史および戦争記憶の研究。著書に『ドイツ文化事典』(編集幹事・執筆、丸善出版)、『日本人が知りたいドイツ人の当たり前』(共著、三修社)や『教養のドイツ現代史』(共編著、ミネルヴァ書房)など。