申込不要受付中締切間近終了
東京女子大学

ストーリー

[教職員]

企業組織における人の心理・行動を追究し誰もが充実して働ける社会づくりに貢献する

東京女子大学 現代教養学部 心理・コミュニケーション学科 准教授 正木 郁太郎(取材当時)

心理学と聞くとカウンセリングのイメージがありますが、私の専門は社会心理学です。2人以上が集まったときに起こる心理的諸相を扱う分野で、中でも企業組織における人々の心理・行動や、そこから生じる集団現象を対象に研究しています。

現代の企業経営では、国籍・性別・年齢・学歴などに関わらず多様な人材を活用し、その能力が最大限発揮できる機会を提供する「ダイバーシティ経営」が提唱されています。労働人口が減少する中で多様な人々の力を最大限生かす必要が高まっていることと、社内に異なる価値観が混在することで多様なアイデアが生まれやすくなり、市場の変化に柔軟に対応できるというのがその理由です。一方で、人は自分と似た属性や価値観の者同士が魅力を感じて集まりやすいため、現実的には多様な人から成る組織の運営には難しい部分も出てきます。具体的にどういう影響があり、どうすれば「多様な人が一緒にいる」影響をポジティブなものにできるのか。企業などと連携し、社内意識調査の設計や統計分析、それらを用いた研究や施策提案などを行っています。

例えば、この研究を通し、高いダイバーシティで成果を上げている企業ほど「感謝」や「称賛」といったコミュニケーションが豊かであることが分かってきました。そこで近年は感謝・称賛に焦点を当てた研究にも着手しています。複雑な制度設計に加えて、こうした日常的なコミュニケーションの工夫からでも、ダイバーシティの影響をより良いものにできないか研究しています。このほかにも企業組織を対象に幅広く研究を進めており、テレワークが増える中で、オフィス環境が組織に果たす役割にも注目しています。

昨今は企業でも、人事・組織の課題を、経験や勘、精神論だけではなくデータで解決しようという「ピープル・アナリティクス」の取り組みが進んでおり、社会心理学の理論や分析手法も注目されるようになってきました。「自分らしさ」や「働きがい」が重要視される社会変化の中で、人の心や、それと向き合う人材・組織マネジメントがより問われる時代になってきたのです。ダイバーシティやテレワーク、若者の離職率など、企業組織の課題は時流によって変化しますが、人の心理行動は本質的に変わらない部分があるはずです。その本質をきちんと追い続け、現場の方々と一緒に研究と問題解決の両方を進めていきたいと思っています。

目指すのは、誰もが明るく幸せに、充実して働いている世の中をつくることです。集団の運営や活動には困難も多くありますが、個人ではなく集団だからこそ実現できることが多いのも事実です。だからこそ、集団の働きをプラスに向けるために必要なことを考えていきたいと考えています。チームワークや集団内での対人関係に関心のある方には、ぜひ社会心理学を学んでほしいと思います。
研究キーワード 組織 / ダイバーシティ / 規範・文化


正木 郁太郎
東京女子大学 現代教養学部 心理・コミュニケーション学科 准教授 (取材当時)

博士(社会心理学)。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了、東京大学大学院人文社会系研究科研究員などを経て現職。専門は社会心理学、組織行動論。組織で働く際の人の心理や行動、規範や文化(集団の暗黙のルールや雰囲気)の形成について研究している。現在は特に組織のダイバーシティにまつわる諸問題や組織運営を研究し、民間企業との共同研究やアドバイザーなどの経験も多数。単著に『職場における性別ダイバーシティの心理的影響』(東京大学出版会)、共著に『多元的無知—不人気な規範の維持メカニズム』(同)など。