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東京女子大学

ゼミの小窓 Vol.5

東京女子大学では多数の教員がさまざまな分野の研究活動を行っています。
各教員が語る「ゼミの小窓」を通して、研究内容の例をご紹介します。
※本記事は東京女子大学広報誌『VERA』連載の教員コラム「ゼミの小窓」を再構成したものです。

第13回 /日本語を考える-日本文学専攻 丸山ゼミ

日本語の研究

私の専門は日本語学(現代語)です。言葉にはさまざまな側面があります。音声、文字、文法、意味、運用(敬語・男女差など)。他の言語と共通の事柄もあるし、違いもある。歴史的に変化もしてきている。言葉を知ることは人間を知ることでもあると思います。

コンピュータと日本語学

東京女子大学には、大型コンピュータが早い時期に導入され、日本文学専攻(かつては日本文学科)の授業として「言語情報処理」が設けられ、今も続いています。

最近は、第三次AIブームで、生成AIがもてはやされていますが、私は、第二次AIブームの時(1980年代)に、企業で機械翻訳のプロジェクトに携わっていました。その頃はルールベースでしたが、今はデータをベースにする仕組みに変わっているので、方法は大きく転換しています。現在、第三次AIブームの中で、日本語学ゼミの後輩たちが、各所でデータを整備する仕事に携わっています。一度は、第二次ブームが終わって、自然言語処理は見込みがないかのようになっていましたが、世の中は螺旋状(らせんじょう)に進んでいくのだと思わされます。

近年はコーパス言語学が盛んになり、国立国語研究所他で、大規模なコーパス(電子化された言語資源)を構築し、それを基に分析する研究が増えています。

計量国語学会

日本語を計量的に分析するための学会、計量国語学会が1956年に設立されましたが、その事務室は、今、私の研究室の中にあります。私の恩師である水谷静夫先生(東京女子大学名誉教授、2014年逝去)が設立に関わった学会です。

国語辞典

もう一つ、辞書の仕事もしていて、『岩波国語辞典』の改訂作業を行っています。これも、水谷静夫先生が初版から関わっていた辞書です。100年のスパンで現代語を考え、変化にも対応していく、大切な仕事であると思っています。

最近の卒業論文

最近、役割語研究(アニメや映画の言葉)やSNSの言葉の研究、歌詞研究を行う学生が増えています。生成AIの翻訳と人間の翻訳者の翻訳とを比較したものもあり、多様です。日本語の今とこれからについて、学生とともに考えています。

入門コンテンツ

『計量国語学事典 新装版』計量国語学会 編(朝倉書店、2009年刊行、2020年新装版)

計量国語学(統計学的な方法を用いて、言語や言語行動の量的側面を研究する学問分野)の事典。計量国語学会が編集。

『岩波国語辞典 第八版』西尾 実 他編(岩波書店、2019年)

本学名誉教授だった故水谷静夫先生が初版(1963年刊)から関わり、現在、水谷ゼミの卒業生が中心に改訂に関わっている国語辞典。
  • 丸山 直子

    人文学科 日本文学専攻 教授
    東京女子大学大学院文学研究科日本文学専攻修士課程修了。博士(文学)。日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所研究員を経て、1987年度より東京女子大学教員。

第14回 / 医療・社会・ケア関係-国際関係専攻 玉井ゼミ

近代医療が教えてくれないこと

大事なテストの前日。頭が痛い、関節が痛い、ボーっとする。体温は38度。さて、あなたはどうするでしょうか。解熱剤を飲む、病院に行く、栄養のある食事を摂とる……。心や体が「異常」な状態に陥ったとき、私たちはしばしば、近代医療の手を借りて治療を試みます。近代医療は、「異常」を引き起こす原因(ウイルスや病原菌)を見つけ、介入します。その効果は絶大です。だからこそ私たちは、人間の体や心の問題を、医療の問題として当たり前に捉えます。

しかし、そうした病いの捉え方や対処の仕方は、社会や文化に応じて異なります。東アフリカのヌアー人の社会では、病いや不幸を、妖術を使って説明していました。「Aさんが切り株につまずいて怪け我がを負ったのは、妖術のせいだ」と主張するわけです。「迷信だ」と思うでしょうか。では私たちの社会では、病いや不幸を、どのように説明するでしょうか。近代医療は「あなたが38度の熱が出たのは、〇〇ウイルスが原因だ」などと説明してくれます。しかし、「なぜ他でもないあなたが」「なぜよりにもよってテストの前日という大事なときに」不幸に見舞われたのでしょうか。近代医療は、こうした疑問に答えてくれません。それに対してヌアー人の社会では、こうした疑問にこそ、妖術を用いて答えてくれます。ヌアー人の社会は、病いや不幸とともに向き合う卓越した術を備えているのです。

社会的な存在としての人間

このように考えていくと、人間の体や心の問題は、人間を生物学的な存在として捉えるだけでは対処しきれないことが分かります。なぜなら私たちはさまざまな人とつながり、関わる、社会的な存在でもあるからです。例えば病気で苦しんでいるとき、両親や友人の優しい一言が、気持ちを楽にしてくれるかもしれません。自分が慢性の病気を抱え不安な気持ちになったとき、同じ病気を抱えている人とつながり、経験を共有することで、病気と向き合う気持ちを持てるようになるかもしれません。こうしたつながり、そしてそこで生まれるケア関係は、病いに対処していく上で、とても重要となります。

ケア関係を探求する

私のゼミでは、こうした誰もが抱える病いと人々のケア関係について考えることを一つのテーマにしています。これまで検討したテーマは、例えばアレルギー、アトピー性皮膚炎、糖尿病、老化、月経、妊娠、HIV/AIDS、美容整形、薬剤耐性、新型コロナウイルス感染症、ジカ熱、トラウマ、エナジードリンクなどなど、実に多岐にわたります。いろいろなテーマで、世界各地の事例を持ち寄り、みんなで議論します。人間は他者と関わり合い、ケア関係を形成する存在であることを前提に、さまざまな人が共生する社会を探求しています。

入門コンテンツ

『ヴィータ——遺棄された者たちの生』(みすず書房、2019年)
ジョアオ・ビール 著/ 桑島 薫・水野 友美子 訳

ブラジル南部にある保護施設「ヴィータ」。物語の主役は、ひとりの女性カタリナ。家族、地域社会、政府が生産性という基準で人間を選別し「遺棄」するメカニズム、そしてカタリナ自身の言葉から描かれる人間の生が明らかとなります。
  • 玉井 隆

    国際社会学科 国際関係専攻 准教授
    東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。文化人類学、アフリカ地域研究が専門。在ナイジェリア日本大使館専門調査員、東洋学園大学准教授等を経て現職。NPO 法人アフリカ日本協議会共同代表も務める。