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東京女子大学

ストーリー

[教職員]

コンピュータの力と人間の知能を掛け合わせ未解決な数学の難問に挑む

東京女子大学 現代教養学部 数理科学科 情報数理科学専攻 教授 劉 雪峰(取材当時)

高校で習う微分は「Xの変化に対しYはどれだけ変化するのか」、つまり変化を数式で表したものです。微分は、身の回りの自然現象を理解しようというところから生まれ、あらゆる自然科学の基礎となっています。高校の微分では変数はXだけですが、自然界には時間・空間・形状などさまざまな変数があるため、大学数学では2変数以上の変数に対する変化を見る「偏微分方程式」を用い、自然現象を説明します。

この偏微分方程式の中で最も有名な方程式の一つが、水の流れを記述する「ナビエ-ストークス(NS)方程式」です。NS方程式は150年以上も前に発見され、ある程度基本的な水の運動ならば、この方程式が高精度の記述を与えると考えられています。しかし実際の水の動きは渦を巻くこともあれば、蛇口に近いところでは勢いが増すなど複雑です。NS方程式の解の存在や正則性については未解決な部分が多く、その解の存在証明は、米国のクレイ数学研究所が提示したミレニアム懸賞問題の一つになっています。

コンピュータが進化した現在、こうした数学上の難問をコンピュータの力を借りて証明しようとする研究手法「計算機援用証明」が生まれています。とはいえ、例えば小数点以下が四捨五入されて表現されてしまうように、コンピュータは「0.1」を完全に正確には表現できません。そのためコンピュータで数学の問題を解く時にはさまざまな誤差が生じます。私の研究は、これらの誤差を全て厳密に見積もり、数学的な証明にも使える計算手法を開発し、NS方程式の解の検証のような数学の難問に挑むことです。

現代社会は自動車や飛行機の設計などあらゆる場面で計算に大きく依存しているため、誤差問題を解決することは単に数学上の問題の解明だけでなく、工業分野における安全性・信頼性の向上と密接につながります。例えば、飛行機の設計にはコンピュータシミュレーションが用いられますが、コンピュータで設計しただけの飛行機には怖くて誰も乗れないでしょう。コンピュータを使った事前予測にどのくらい誤差があるかを保証しなくてはいけない。そこで、その誤差を厳密に計算し数学的な証明ができれば、社会の発展に大きく寄与するはずです。

人間の知的能力とコンピュータの力を組み合わせることで、未解決の数学的難問に挑むと同時に、計算機を用いた計算手法の進化で科学全般における新たな可能性を開くこと。情報数理を学び、こうした社会の発展に貢献したい皆さんの入学をお待ちしています。
研究キーワード 微分作用素 / 偏微分方程式 / 数値計算法
劉 雪峰
東京女子大学 現代教養学部 数理科学科 情報数理科学専攻 教授(取材当時)

博士(数理科学)。東京大学数理科学研究科博士課程修了後、早稲田大学理工学術院総合研究所、新潟大学自然科学研究科などを経て現職。専門は数値解析、有限要素法、計算機援用証明など。コンピュータを使って純粋数学の難問といわれるナビエ-ストークス方程式や固有値問題の研究に挑む。