申込不要受付中締切間近終了
東京女子大学

トピックス

[レポート]

対話型日本語教材『ともに学ぶ「せかい」と「にほんご」』制作レポート

Thu.

心理・コミュニケーション学科コミュニケーション専攻の松尾慎教授と日本語教育を学ぶ大学院生が作成した書籍、対話型日本語教材『ともに学ぶ「せかい」と「にほんご」』が発行されました。
制作に携わった人間科学研究科人間文化科学専攻現代日本語・日本語教育分野の学生5名(五嶋友香さん、澁谷こはるさん、東樹美和さん、西村愛さん、矢部紬さん)に、制作についてインタビューを行いました。

——今回の取り組みについて、詳しい経緯をお知らせ下さい。

対話型日本語教材『ともに学ぶ「せかい」と「にほんご」』は、わたしたちの指導教員であり、日本語教員養成課程を担当している松尾先生や著者メンバーである大学院生などが参加するVilla Education Center(以下、VEC)の日本語活動が基礎となっています。VECの日本語活動は毎週日曜日に高田馬場で行っており、2014年にミャンマー出身難民当事者と松尾先生が立ち上げました。わたしたち大学院生は、2年~4年前からVECの活動に継続的に参加しています。この本の企画は何年も前から松尾先生が構想されていたそうです。改めて、出版に至る経緯をお伺いしたところ以下のようなお答えでした。

「単に日本語学習者の日本語力を上げるためだけの教材ではなく、活動に関わるすべての人が、国や文化という枠を超えて存在するグローバルイシューについて、文化的差異を超えて、地球市民としての視点から対話できる力を養うことができる教材を作りたいという夢をずっと持っていました。またそういう実践を目指し続けてきました。それを形にしたいと思ったのがこの教材です」。
松尾先生に「一緒に教材を作ろう」とお声掛けいただいたときには、少しびっくりしましたが、松尾先生の想いに共鳴し、勇気を持って参加することにしました。

——やりがいや面白さを感じたのはどのような部分でしょうか。

VECの活動では毎回ワークシート1枚を使用していましたが、今回教材として1冊の本になったことで、これまで積み重ねてきた活動がかたちになっていく過程にやりがいを感じました。1冊の教材ができる過程に参加できたことは貴重な経験でありましたし、完成が近づき、かたちになればなるほど、「ここまでがんばってきてよかった」と思いました。

出版後は、教材を手にとっていただいた方から「このタイトルが気に入った」、「このユニットがお気に入り」、「この教材を使ってみたい」などの声をいただき、うれしい気持ちになったと同時に、ここまでやりきったという達成感も感じられました。面白さを感じたのは、教材を作成する中で、これまで自分が知らなかったことを新たに知り、学べたことです。日本語教育の知識はもちろん、本教材では多様なトピックを扱ったので、さまざまな分野の知識や情報を得ることができました。

完成まで、何度も著者メンバーと話し合いを重ね、活動案を修正したり、松尾先生のゼミやVECの活動を通して試行しました。そこでいただいた意見や感想から、改善点を見つけられたのは教材をいいものに仕上げていく上で重要な過程であったと思いますし、わたしたちの学びにもなりました。著者メンバー間の話し合いや試行を含め、教材をつくる過程自体に「面白さ」がありました。

——大変だったことや、それに対して工夫したことはありますか。

わたしたち学生にとって教材の出版は初めての経験だったため、すべての作業が大変ではありました。例えば、著作権など権利の問題、教材に載せる表現の捉え方の問題(読み手にどう伝わるか、一語一句配慮する)などがあります。ひとりで、あるいは学生だけで悩み立ち止まるのではなく、松尾先生や出版社の方々から意見をいただいたり、作成者同士で「対話」したりしながら進めました。本教材では「対話」を通して学ぶことを大切にしていますが、作成段階からわたしたちも「対話」を大切にしてきました。

これまで長年VECの活動を支えてくださった方の想いや、大切にしてきたことをしっかりと受け継ぎ、かたちとなるよう、試行錯誤を繰り返しました。これまでのVECの活動が基礎となるだけあって、作り手がわたしでいいのかという不安やプレッシャーもありました。しかし、なかまとともに何度も対話し、話し合いを重ねていくことで、その不安やプレッシャーが解消されていきました。そうした作業を大学院での研究やその他の活動と同時進行で進めるのは正直簡単ではありませんでした。出版社の方がわたしたちに配慮した締め切りを設けてくださったこと、作成メンバーで励まし合いながら進めたことで「出版」を迎えることができたと思います。

—— 取り組みに生かされていると感じる学びはどのようなものでしょうか。

東京女子大学の日本語教育養成課程の授業では、日本語教授法はもちろんですが、どのような人が日本語を学んでいるのか、学習者の背景について学ぶ機会が多くありました。課程での学びを活かし、教材作成時も「どのような人(あるいはどのような日本語教育現場)がこれを手にするのか」 を常に想像しながら作業を進めることができました。本教材には、東京女子大学やこれまでの経験から得た「日本語教育」や「多文化共生」についての学びがエッセンスとして散りばめられています。

わたしたちは、単に日本語を教えることを目的とした教材ではなく、「対話型日本語教材」を作成しました。VECの活動のように、参加するすべての人が学び合うようにデザインされています。この教材は、東京女子大学で日本語教育を学んできたわたしたち、VECに参加してきたわたしたちだからこそつくることができたと思います。

ー今後の展望、チャレンジしたいことがあれば教えてください。

本教材を手にしてくださった方々の意見を伺いたいです。また、本教材を購入いただいた方を対象にワークショップのようなものを開催して、教材のよりよい活用方法を探っていきたいです。東京女子大学で日本語教育を学ぶ学生とともに教材を使った活動を行うことや大学以外でも本教材に関心を持つ地域の方々との協働もしてみたいと考えています。

メンバーの中には、参加型学習があまり浸透していないインドネシアの大学など、これからさまざまな日本語教育現場で活動する予定の者がいます。そうした現場でどのくらい通用するのか、チャレンジしたいという思いがあります。