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[教育]

特別対談|自らの思いに忠実に、強い意志で、自分らしく生きる力を

Tue.

写真左から 大谷 弘准教授(人文学科哲学専攻)・小澤理沙さん(人文学科哲学専攻4年生)・佐野正子教授(大学宗教委員長 キリスト教センター長)

哲学専攻4年の小澤理沙さんが、母校であり高大連携校の女子聖学院中学・高等学校の冊子『Be a Messenger』にて、「キリスト教教育」と「女子教育」をテーマに本学教員と対談した様子が掲載されました。

自らの思いに忠実に、強い意志で、自分らしく生きる力を

女子聖学院の教育の柱である「キリスト教教育」と「女子教育」は、生徒にどのような力を育んでいるのでしょうか。現在、東京女子大学で哲学を専攻している小澤理沙さん、ゼミの指導教員である大谷先生、大学宗教委員長でキリスト教センター長の佐野先生のお話から紐解いていきます。女子聖学院の卒業生でもいらっしゃる佐野先生とは、中高時代の活動についても話が弾みました。※文中敬称略

キリスト教の教えや哲学を通して生きる意味を探究

佐野 女子聖学院は東京女子大学にとって産みの親のミッションスクールの一つと言えるほど、両者の間には深いつながりがあります。小澤さんが東京女子大学に進学された理由は何だったのでしょう。

小澤 哲学を学ぶためというのが一番の理由で、その原点は女子聖学院にあります。私は女子聖に入学して初めてキリスト教に触れたのですが、聖書の教えはすんなり心に入ってきて、毎朝の礼拝などで学びを深めるうちに、自分が生きている意味や神の存在について考えるようになったんです。大学ではそれを探究したいと思って哲学専攻を選びました。

大谷 小澤さんのことは1年次の頃から見ていますが、いい意味で物事を斜めから見ているという印象です。授業で古典的文献を読むときも、「これ何がおもしろいんですか」と言ってくるなど、古典だから、あるいは教員が言うから重要だとそのまま受け入れるのではなく、自分の頭で考えるという姿勢を持っていますよね。哲学というのは、私たちを取り巻いている「当たり前」を問い直してみる学問です。その意味で、小澤さんの姿勢は非常に哲学的だと思います。

小澤 ありがとうございます。それを卒業論文でも活かせるといいのですが。

大谷 小澤さんのテーマは、「真の自己をファッションで表現するのは可能か」でしたね。ファッションという身近な事柄と、自己という普遍的な問題を上手に結びつけた興味深いテーマだと思います。

小澤 哲学は「当たり前」を問い直してみる学問だと大谷先生がおっしゃったように、ファッションを通して、女らしさや男らしさといった枠にはめるような価値観を見直すこともやってみたいと考えています。たとえば、スカートをはいている男性を電車で見かけたら、一瞬、「えっ?」と思う人は多いですよね。そうした無意識のジェンダーバイアスや多様性の問題についても掘り下げていきたいです。

大谷 社会には、たくさんの「当たり前」があふれています。とくに女性は、「女性だから○○すべき」という根拠のない押し付けを感じる場面がまだまだあるのではないでしょうか。大切なのは社会から押し付けられた「当たり前」に振り回されることなく、ひとりの人間としていかに生きるかということですよね。

佐野 東京女子大学はキリスト教に基づいたリベラル・アーツ教育を掲げていますが、これは、学生一人ひとりがさまざまなとらわれから解放されて、自分らしく生きる力を育むためのものだと私は考えています。

性別にとらわれず、のびのび過ごせる 女子校という環境で学ぶ意義

小澤 佐野先生も女子聖学院のご出身だそうですが、どんな学校生活を送られたのですか。

佐野 自由な雰囲気の中、好きなことを思いきりやってのびのび過ごした6年間でした。コーラス部の部長を務めたり、生徒会の役員として他校との交流を企画したり、世界がどんどん広がっていきました。充実した日々でしたが、確か中学校の3年生になった頃から、私はなぜ生きているんだろう、生きる意味とは何だろうと悩み始めたんです。小澤さんと同じですね。

小澤 先生もそうだったんですか。

佐野 はい。そのとき力をくれたのが毎朝の礼拝です。一日の始まりに、心を落ち着けて美しいチャペルで聖書の言葉に耳を傾けるひとときは、神様の前で自分を見つめ自分の生き方について考えるかけがえのない時間でした。女子聖の同級生と話すと、信仰の有無にかかわらず、みんな礼拝が自分にとって大切な時間だったと言います。

小澤 私は教室での礼拝も印象に残っています。担任の先生が、普段の授業では話さないようなご自身についての話をしてくださったり、それを聞いてまた自分を見つめ直したり、頭ごなしに理屈で言われると受け入れられないようなことも、礼拝や聖書を通すと不思議と心に沁みこんでいきました。知識や技能を身につける教科の授業とはまた違って、心や人間性を育むことができるのが礼拝ではないでしょうか。

佐野 その通りだと思います。私にとって礼拝の時間は、神様と自分との縦の関係で自分を捉えなおして、周りに流されずに本当の自分を探し求める時間でした。

小澤 実は、女子聖に入学するまでの私は、自分を表現するのが苦手で、周囲の目を気にしてばかりいる人間でした。それが今のように変化したのは、ダンス部に入った影響もありますが、やはり聖書を学んだことが大きいと思います。とくに、「明日のことまで思い悩むな」という言葉に出会ったときは視界がパーッと開けるような思いで、そこから何にでも挑戦できる自分になりました。今でも、事あるごとにこの言葉を思い出しては心を整えています。

佐野 本学にもチャペルがあって、女子聖と雰囲気が似ていますよね。最初に女子聖学院は東京女子大学の産みの親の一つと申し上げましたが、1918年に本学が創立された際、女子聖学院の創立者であるクローソン院長(当時)やレディアード宣教師(当時)が重要な役割を担ってくださいました。また、女子聖の建学の精神は「神を仰ぎ、人に仕う」。それに対して本学は、「Service and Sacrifice(仕えることと捧げること)」。神様のもとで人に仕えるという考え方も大きな共通点です。

大谷 佐野先生と小澤さんのお話を聞いていると、自分の頭で考えて、自分の言葉で話す力がしっかりと培われる環境で中高の6年間を過ごしてこられたんだなと感じます。それは女子聖学院の特色である、キリスト教教育と女子教育によって育まれたものなのでしょうか。

小澤 女子だけの環境だったからこそ、性別にとらわれず、のびのび自由に過ごすことができたという実感はあります。いろいろなタイプの生徒がいましたが、それぞれの個性が尊重されて、一人ひとりがありのままの自分で過ごせる場所でした。それから運動会や修学旅行をはじめ、学校行事を生徒主体で運営・開催することも女子聖の特色なのですが、その中で、何でも自分たちでやるという意識も根づいたと思います。

佐野 2021年には東京女子大学と女子聖学院が「高大連携協定」を結びました。現在も本学では14名の女子聖出身の学生が学んでいますが、この協定によって指定校推薦枠が25名に拡大されました。8 月には女子聖の生徒とその保護者を対象としたオープンキャンパスを開催しました。大勢の方にお集まりいただいてとても嬉しく思いました。今後は、中高生と大学生との交流や出張講義など様々な企画を通して、つながりをより深めていければと考えています。

自分の考えを臆することなく述べる その姿勢は女子聖の伝統

佐野 卒業後はどのような道に進まれますか。

小澤 念願だった株式会社日比谷花壇から内定をいただくことができました。中学校から今まで学び続けた結果、私にとっての生きる意味の大きな一つは、人を笑顔にすることだとわかりました。ですから、それを実現できる仕事に就いて社会貢献につなげていければいいなとずっと考えていて、そのためにここで働きたいと思ったのが日比谷花壇だったんです。

佐野 将来の進路や仕事選びに際しても、「生きる意味」が起点になっているところが哲学専攻らしいですね。小澤さんならどこに行ってもしっかりやれると思います。

小澤 私にとって哲学は、何かに行き詰ったときの道しるべです。社会に出たら新たな悩みに直面することもあるでしょうけど、そのとき、自分はこうだという軸を持っていれば、どんな困難にも折れることなく立ち向かえると思います。女子聖で身につけたキリスト教の精神が私の土台だとしたら、東京女子大学で哲学を学ぶことで、その土台をさらに強いものにできたと感じています。

大谷 それを聞いて本当に嬉しいです。誰かから言われた「当たり前」に振り回されることなく、立ち止まってそれを吟味して、受け入れるかどうかを決める。そうすることで、どんな社会にあっても充実した、自分自身の人生を生きることができると思いますし、それが哲学を学ぶ意義です。

佐野 自分の考えを持って臆することなく意見を述べる、小澤さんのその姿勢は女子聖学院の伝統ですね。仕事でも自分らしさを発揮していってください。

小澤 はい。日比谷花壇はショップだけでなく、ウェディングをはじめとする、イベントプロデュース、地方創生など幅広い事業を展開している企業です。その中で、花を通してさまざまな立場の人とコミュニケーションできること、お客様の喜ぶ顔を直接見ることができるのが楽しみです。
  • 佐野 正子 教授

    大学宗教委員長 キリスト教センター長
    現代教養学部 人文学科 哲学専攻 教授

  • 小澤 理沙さん

    現代教養学部 人文学科 哲学専攻 4年
    女子聖学院中学校・高等学校 (2019年卒業)

  • 大谷 弘 准教授

    現代教養学部 人文学科 哲学専攻 准教授