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東京女子大学

ゼミの小窓 Vol.1

東京女子大学では多数の教員がさまざまな分野の研究活動を行っています。
各教員が語る「ゼミの小窓」を通して、研究内容の例をご紹介します。
※本記事は東京女子大学広報誌『VERA』連載の教員コラム「ゼミの小窓」を再構成したものです。

第1回 / 歌舞伎に学ぶ江戸人の発想-日本文学専攻 光延ゼミ

歌舞伎は2.5次元?

  • 香蝶楼豊国画「十八番之内 勧進帳」
    (国立国会図書館蔵・寄別2-7-2-1)

私が研究しているのは、日本の伝統芸能の歌舞伎です。今でこそ敷居が高く感じられがちな舞台芸術ですが、江戸の人たちにとっての歌舞伎は第一級のエンターテインメントでした。現代人がYouTubeで動画を見たり、シネコンやテーマパークに足を運んだりするのと同じ感覚で、江戸人が楽しんでいたのが歌舞伎です。ベストセラーの『南総里見八犬伝』の歌舞伎化なども行われていましたが、これなど、現代の2.5次元ミュージカルと何らやっていることは変わりません。

そうした文化現象としての歌舞伎へのアプローチ法はさまざまにあります。スター役者の芸歴をたどったり、興行システムを明らかにしたり…。私は江戸時代の台本を読み込んで作者の特徴を明らかにする、作者〈推し〉の研究を主に行ってきました。最近は、金井三笑という作者が、代々の団十郎の得意芸を集めた「歌舞伎十八番」のうちの『解脱』と『蛇柳』を執筆していることから、市川家の芸についても関心を持っています。昨年度は杉並区の公開講座で「もっと知りたい! 歌舞伎十八番」というお話もさせていただきました。

古典の再創造

十八番の中で最も有名な作品は、弁慶を主人公とした『勧進帳』でしょう。十三代目の団十郎がこのほど新たに誕生しましたが、その襲名披露の演目にもなりました。『勧進帳』を初演したのは元禄時代の初代団十郎です。ただし、現行のものは初代の芸を正確に踏襲している訳ではありません。天保年間に十八番を制定した七代目が、市川家の格を高めるため、先行芸能である能の「安宅」に近づけて再創造したのが今の『勧進帳』なのです。

このように歌舞伎は、既存の作品を時代に合わせてカスタマイズし、新たな価値を生み出すことを繰り返してきました。『風の谷のナウシカ』が歌舞伎化され、アニメから生まれ変わったことなども記憶に新しいところです。古典不要論なども取り沙汰される昨今ですが、今に生きる古典である歌舞伎には、古いものからどのようにして新しいものを創造していけば良いのか、現代社会が必要とする知恵が隠されているのです。

入門コンテンツ

『江戸歌舞伎作者の研究 金井三笑から鶴屋南北へ』(笠間書院、2012年) 光延真哉著

金井三笑の経歴を明らかにし、その作風が『東海道四谷怪談』の作者として知られる弟子の鶴屋南北に影響を与えていることを指摘。南北の初期作など学界未知の資料も多数紹介し、第6回日本古典文学学術賞を受賞した。
  • 光延 真哉

    人文学科 日本文学専攻 教授
    1979年東京都生まれ。東京大学文学部卒業、同大学院人文社会系研究科修士・博士課程修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員(PD)、白百合女子大学専任講師、本学准教授を経て現職。

第2回 / 正当性と合法性のはざまで-国際関係専攻 根本ゼミ

「法廷で会いましょう」?

2021年は、アメリカでの同時多発テロ事件の発生から20年になります。ゼミの学生にとって生まれて間もない頃に起こったこの事件は、もはや「過去」のものかもしれません。ゼミ生たちはこの20年の間にこんなにも立派に(!)成長し、6号館の教室で(2020年度はPC 画面の向こうで)国際条約集を片手にさまざまな国際紛争について、法的側面から議論を交わしています。これだけの時間が流れた中で、テロリズムに対抗するための方策も練られ、より実効的にテロリストを捕捉して処罰する国際法が確立したことだろうと期待感が高まります。しかし、国際社会はアフガニスタン(2001年)やイラク(2003年)での武力紛争を経験しました。近年では、シリアやイラクの領域を越境的に支配し、自分たちを「国」と称する「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」という集団も登場し、今なお国際社会では、時に国際法上の正当化が難しい武力行使に訴えて対処しているのが現状です。

「なぜ武力に訴えるのですか?!」「国際司法裁判所で合法・違法を判断できないのですか?!」。このように、最後の最後には、裁判所が紛争を解決してくれると考える方もおられるでしょう。しかし、国際司法裁判所で裁判を開始するためには、紛争当事国の双方の同意が必要になります。ましてや、相手がテロリストとなると、「法廷で会いましょう」と言い放って立ち去ることは不可能なのです。
  • オランダ・ハーグの平和宮(Vredespaleis) この中に国際司法裁判所(International Court of Justice)が常設されている

あの坂をのぼれば…

では、個人であるテロリストに対して、国家が自衛権を行使することは合法なのでしょうか。私は、「いつ」「どのような」武力行使であれば合法な自衛権行使となるのかという要件論を、裁判判例や国家実行の分析を通して研究していますが、実は、この問いへの明確な答えは未だに出ていません。テロリストの掃討は、一見して「正しい」ように見えます。しかし、アメリカやロシアの実行のみで国際法が形成されるわけではありません。それが国際法という「今ある法」に照らして「合法かどうか」は別の問題なのです。「正しさ」という政策の正当性よりも前に、「今ある法」をギリギリまで解釈し、合法性の視点からさまざまな国際問題を精確に理解すること、これが私のゼミで果敢に取り組んでいる課題です。

環境、人権、領域紛争などあらゆる国際問題の解決において・・・・・・・・・・・・・・・、国際法の解釈や国家実行、学説が、急な坂のごとく眼前に立ちはだかります。そんな時、「あの坂をのぼれば」という杉みき子さんの作品が思い出されます(と、同時に、国際法はやっぱり国際関係専攻の必修科目であるべきではなかろうかと思うのは、私だけ)。「あの坂をのぼれば答えが見える」と思い、一所懸命に調べて、読んで、議論して、考える。しかし、流動的な国際社会では、すぐにまた別の課題が出現します。そしてまた調べて…。果たしていつになったら答えが見えるのか。このような動態的ダイナミックな国際社会の観察や国際法の解釈を「面白そうだ!」とお思いになった、そこのあなた。ぜひ国際法の小窓をのぞいてみませんか?
  • 「香港の逃亡犯条例改正」について議論をしている1コマ(6号館)

ゼミの小物

必携の『国際条約集』と『国際法判例百選』とともに、今年度は『サブテクスト国際法』を講読し最新論点を分析。Zoom で発言したい時には手作り国旗を揚げると、挙手より視認性が高いし楽しい! レジ袋有料化に伴いゼミで作成したエコバッグに、これらを入れれば、「どこでも国際法」を実践できます。
  • 根本 和幸

    国際社会学科 国際関係専攻 教授
    上智大学法学部国際関係法学科卒業、同大学院法学研究科法律学専攻博士後期課程単位取得満期退学。上智大学法学部助手、東京国際大学国際関係学部専任講師、准教授を経て、現職。その間、外務省国際法局国際法課国際法調査員を務める。