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東京女子大学

第2回公開研究会(2013年9月27日)

黒沢文貴 (東京女子大学教授)「再考・戦後の日本近代史認識——昭和戦前期の「戦争の構造」と「歴史の構造」をめぐって」

本報告は、戦後史のなかで形成されてきた日本近代史認識、とりわけ太平洋戦争もしくは昭和戦前期をめぐる歴史認識について検討した。それによって 、戦後の歴史研究者たちの戦後認識の一端を明らかにし得たと思っている。

なお報告は、次の内容に沿って行った。
  1. 歴史認識の分裂か、多様な歴史認識の共存か
  2. 政治性のまとわりついた歴史認識
  3. 「歴史」の「政治化」と実証研究、そして「歴史」の「政治化」の「国際化」
  4. 昭和期の戦争の複雑さ
  5. 昭和期の「戦争の構造」をどのように理解するのか
  6. 「歴史を忘れない」ことからくる対立と和解
  7. 「戦争の構造」と「歴史の構造」

茂木敏夫 (東京女子大学教授)「コメント」

歴史認識を成立させている枠組を検討する場合、その枠組がなぜ採られたのか、それがどのような価値観(あるいは政治性)に基づくものなのか、その背景を考える必要がある。

戦後日本の歴史認識の枠組の変遷を考えると、その背景には近代をどう受け止めるか、という問題が存在していた。西洋近代モデルが確固としていた時代から、西洋近代モデルの絶対性が崩壊したポスト・モダンの時代へ、と日本は大きく変化した。一方、この時期の周辺諸国では1970年代以降の経済発展とそれにともなう民主化によって、ますます近代主義的になっていった感がある。こうした近代をめぐる日本と周辺諸国とのズレは、戦争や植民地支配をめぐる歴史認識のズレを呼び、結果として歴史は「国際化」した。

朝鮮植民地支配についても最後に言及していたが、その視野を明治日本の内国植民地(沖縄や北海道)にも拡大してみると、同時期の中国清朝の進めた台湾や新疆など辺境への直接支配などが視野に入ってくる。すると近代における植民地主義という問題が、東アジアの近代に共通する問題として浮上してくる。それによって丸山眞男や竹内好など戦中戦後の日本の思索は、東アジアに共通する普遍的な知的遺産として開かれてくるに違いない。